翻刻
【右頁】
第十七 何(なに)となく飲食(いんしよく、ノミクヒ)すゝなず。強(し)いて飲食(いんしよく、ノミクヒ)す
れば。胸(むね)につかへ。下腹(したはら)はおちつかぬやうなる
心地(こゝち)するは。前日(まへのひ)に食(しよく)したる物(もの)が。未(ま)だ消化(こなれ)ず
に腐敗(くさ)れて。腹(はら)の内(うち)に残(のこ)りてある故(ゆゑ)なり。其儘(そのまゝ)
に捨置(すておく)か。或(あるひ)は口(くち)がまづしとて。強(し)いて旨(うま)き物(もの)
を食(しよく)しなどせば。大変(たいへん)なことになるゆゑ。急(いそ)ぎ
て醫者(いしや)の療治(りやうぢ)を受(う)くること第一(だいいち)なり。
第十八 虎列刺病(これらべう)の原因(もと)は。全(まつた)く感冒(ひきかぜ)より起(おこ)る。
その感冒(ひきかぜ)は。夏(なつ)より秋(あき)へかけて。受(う)け易(やす)きもの
【左頁】
なり。何故(なせ)なれば。夏(なつ)の初(はじ)めより秋(あき)の末(すへ)までは。
人々肌着(ひと〳〵はだへ)ゆるみ。腠理(けあな)ひらけえしまらざえる故(ゆゑ)。
外邪(じやき)を受(う)け易(やす)きものなり。なれども。熱(あつ)さの節(せつ)
は。たとへ外邪(じやき)を受(う)けても。格別(かくべつ)のことゝも思(おも)
はず。たゞ初(はじ)めの内(うち)は。何(なに)ともなく気分重(きぶんおも)く。手足(てあし)
だるく。又(また)は頭痛(づつう)などして。食事(しようくじ)のすゝまぬは。
暑気(あつさ)あたり。又(また)は時候(じこう)あたりなどゝ云(いつ)て。少(すこ)し
も恐(おそ)れず。邪気(じやき)のある上(うへ)に。又邪気(またじやき)を受(う)け思(おも)は
ずしらず。邪気(じやき)を重(かさ)ねて。終(つい)に此病(このやまひ)を發(おこ)すもの
現代語訳
【右頁】
第十七 何となく飲食が進まない。無理に飲食をすれば、胸につかえて、下腹部が落ち着かないような気持ちがするのは、前日に食べた物がまだ消化されずに腐って、腹の中に残っているからである。そのまま放置するか、あるいは口がまずいからといって、無理に美味しい物を食べたりすれば、大変なことになるので、急いで医者の治療を受けることが第一である。
第十八 コレラ病の原因は、全く風邪から起こる。その風邪は、夏から秋にかけて、かかりやすいものである。
【左頁】
なぜかといえば、夏の初めから秋の終わりまでは、人々の肌着が緩み、毛穴が開いて締まらないため、外邪を受けやすいものである。しかし、暑い時期は、たとえ外邪を受けても、格別のこととも思わず、ただ初めのうちは、何となく気分が重く、手足がだるく、また頭痛などして、食事が進まないのを、暑気あたり、または時候あたりなどと言って、少しも恐れず、邪気がある上に、また邪気を受けて、知らず知らずのうちに邪気を重ねて、ついにこの病気を発症するものである。
英語訳
【Right page】
Article 17: When one loses appetite and cannot eat or drink naturally, and forcing oneself to eat or drink causes chest congestion and an unsettled feeling in the lower abdomen, this is because food consumed the previous day has not yet been digested and has rotted, remaining in the stomach. If this condition is left untreated, or if one forces oneself to eat delicious food because of bad taste in the mouth, serious consequences will follow, so receiving medical treatment urgently is of primary importance.
Article 18: The cause of cholera disease originates entirely from catching cold. Such colds are easily contracted during the period from summer to autumn.
【Left page】
This is because from early summer to late autumn, people's undergarments become loose and their pores open and do not contract properly, making them susceptible to external pathogenic influences. However, during hot weather, even if one is affected by external pathogens, people do not consider it particularly serious. At first, they merely feel heavy, experience fatigue in hands and feet, or suffer headaches and loss of appetite, dismissing these symptoms as heat stroke or seasonal ailments without any fear. Unknowingly, they accumulate pathogenic influences on top of existing ones, and eventually develop this disease.