翻刻
朏(せつ)【左ルビ「みかつき」】
答て云月の周(しう)
旋(せん)すること東ゟ
出西へ転(てん)ずる内に
日行(こう)と差(たが)ひ月は
自行(しこう)の游輪(ゆうりん)を廻(めぐり)
ながら行(ゆく)月の白道(はくどう)
日の黄道(わうどう)に出入(しゆつにう)の
数(すう)六|度(ど)とす其|自(じ)
行(かう)にかゝるの左右と
上下とによつて同
く日光をうけなから
少しく正斜(せいしや)の違(たが)ひ有を下地(かち)より見るゆへ也是を以其|不同(ふどう)あること也
又|朏(みかつき)の正|斜(しや)によつて晴雨(せいう)を占(うらな)ふこと尤理のある所ならん然共
我其|説(せつ)を知らず
○日月の中の黒物(くろきもの)
問て云日|輪(りん)の中には三足の烏あり日の異名(いめう)を金烏(きんう)といふ
又月の中に杵(きね)を操(とつ)て碓(うすつく)兎(うさき)あり月の異名を玉兎(ぎよくと)と云此ゆへ
に日月ともに精光(せいくはう)の中に少しく黒きもの見ゆ是地より遥(はるか)にして
其形|分別(ふんべつ)しがたきもの也と或は云月中の微黒(びこく)は月に桂樹(けいじゆ)あつて
其下に呉剛(ごこう)といふものあり桂男(かつらおとこ)と云是也日月の中にいよ
〳〵然る物ありや不審(いぶかし)若(もし)なしとせばかの黒きものは何
ぞや
答て云日月の中に何ぞ烏兎の気形(きぎやう)あらんすべて金烏
玉兎などの異称(いしやう)は其|実(しつ)によらずものに託(たく)して云こと日月
にも限(かき)らうたとへば七月七日の夜|二星(じせい)の佳会(かくわひ)なども詩聖(しせい)
歌仙(かせん)唱(とな)へ来て其実理に拘(かゝは)らず詠物(えいふつ)とせるたぐい多し