翻刻
十一月といへとも暑中の如く火|気(き)履(はき)ものゝ裏をとふし
桃李花ひらくとあり近くは文政十一子年|霜(しも)月越後
の地震には田の水川の水あたゝかにして小魚|悉(こと〴〵)く
浮(うか)みいづる同十三寅年七月京都の地震は別而あつく
煮湯(にへゆ)の中に座する如し弘化四年|信州(しんしう)越後(えちご)の地
震にも火気ありて甚(はな〳〵)あつしさあれは季候(きこう)に
応(おゝ)せずあたゝかにして諸(しょ)木二度|咲(ざき)空|低(ひく)く星大きく
顕れ井の水江の水|俄(にはか)に溢(あぶ)れ或は涸れ所々に
水|涌(わき)出る杯は皆大地震の前表と心得|油断(ゆだん)なく用心
すへし諸侯(しよこう)大夫の暦々方も中庭広き端近のところへ
すまゐを住(すみ)かへ木馬形(もくばかた)を用|意(い)し火のもときひしく立(たち)
退(のき)の道(みち)筋(わから)とふまで心を配(くば)り宿酒杯過すべからず
泥酔して物の用にたゝざるのみか怪我(けが)有もの也格別(かくべつ)
空低(ひく)く星大きく見ゆるは近きに地震あり後に
空に火気移(うつ)るは即刻(そくじ)に地震火気籠物となる事も
あり雉子鳴衆鳥(しうてふ)鶏をなす故眼馴ぬ鳥出る事あり
何となく土近く響(ひび)くは程なく震(ふる)ひ来る又人間は
小天地なれば気血(きけつ)の循環(しゆんくわん)天地の気候と替る事なき故