翻刻
と云説ありとも雷に血汐(ちしほ)あるいわれなし彼(かの)雷獣などか
いぶかしきことなり殊(こと)に鎗は延元(えんけん)建武(けんぶ)の頃|楠正成(くすのきまさしげ)の臣天野
某短刀を竿(さほ)にくり込用ひたるを始として慶長の頃宝
蔵院|覚禅坊(かくぜんほう)貴?(き)人より十文字鎗を授(さつ)かりしなどはみな
方便(ほうべん)なるへし直鎗(すやり)を十文字に改たり説は覚禅棒文月(ふみづき)の
頃残暑(ざんしよ)を凌かんとある夕暮大和川のほとりに出て納涼(なうりやう)せしが
好(この)める道とて槍をしごきたのしみ居たるに片はらの藪(やぶ)の
中より獺(かはふそ)駈(かけ)出し川へざんぶと飛込むところを得たりかしこ
しと突(つき)かけけるにいかゝしけむ流石(さすが)の名人突そんじアツト云いつゝ
鎗もひかず汗をふきて嘆息(たんそく)したり折しも水面を詠(なが)むれは
鎗の身のなかばに三日月さし移り十文字にみへたりあはや
此かたち有ならは今の獣(けもの)を突とむへきにと夫より工夫して
三日月十文字と号(ごう)し鎌鎗(かまやり)を始めたりといへとも其以前
も鎌鎗あり最も鎗ははるか後に出来たる道具ながらも當
時は第一の武器となり鎗先の高名を専要として一番鎗
其外鎗下(やりした)三段ありに引かへ武士を弓とりまたは
弓矢の家と云けるも時と押うつれは備に鎗脇の弓
あり猶渡世いかなる兵器(ひやうき)流行(りうこふ)せんもはかりかたし何に□