翻刻
かたまりになりむらかり鳴つゝ横には飛ばず上へ〳〵と立昇(たちのぼる)る
事凡五六丈とも思ふ頃地震揺いたしあたりも崩(くづ)るゝばかり
なり此時烏は翅(つばさ)たはゝにだん〳〵と落下りあはや水中に
落いるかとみれは又たちあがること十間ばかり又|揺落(ゆりおと)され
又立あがりかくするうちに地震もやゝ鎮(しづか)りたり先年大
和の国にて雉子(きす)の前表(ぜんひやう)此度の烏其他一切の生類草木に
至るまて天地の変をよく知るもの也|海(うみ)川にて大地震の
前に魚鼈(ぎよべつ)確に嵐大雨には虫魚頻りに氷食是水乃
濁るを知る故なり震|雷(らい)暴風(ほうふう)ともに甚しき時は
前日より鳶(とび)烏(からす)低(ひき)く飛び水鳥却て高く飛ふ是地気の
逆(ぎゃく)する所なり草木のうちにも唐もろこしは大風の三十日
も以前より三節四ふしに根を生し其根土に付時
必大風ありこは年来ためしみたり飃?(つむじかぜ)は春気|龍(たつ)巻は夏気
暴風嵐は秋より初冬に多し先年秋の頃尾州二ツ家
の渡しにて三宅の牡猫(をねこ)の狂(くる)ふを見て暴風をさとり危難(なん)
を脱(のか)れし事あり其他所々におゐて水日風時及ひ深
山幽谷猛獣(もうちう)毒蟲(とくし)の害難(なん)等見聞こと〴〵も数多(あまた)なから
ぐた〳〵しけれは略す熟(つらつら)案(あん)するに膽(たん)の臟(そう)手薄?の生れ