翻刻
其外|建込(たてこみ)多く倒(たを)れたりて是を避(さく)くべき空(くう)地なき場所は
早く心を一図(いちづ)に極め気力を励(はげ)まし棟梁(とうりょう)をよけて
得ものをたばさみ丈夫(じようぶ)の楯(たて)をとりて手薄(てうす)の所より勇気
屈(くつ)せず切ぬけんに何のかたきことの有べきや夫も手がる
に逃(にけ)たるゝ所はのがるゝにしかず女|孺(わらべ)とてもうろたへ騒
がず火のなき火|鉢(はち)箪笥(たんす)様のものを楯にとり其片はらに
夜るのもの等打かつき横様(よこさま)に臥(ふす)へし躰に平屋|茅葺(かやふき)は
猶さら駆(かけ)出すべからず決て怪我(けか)のなきもの也尤是は町家
又は長屋向手軽き所の論(ろん)なら打しかれしと?見るならば
時をうつさず内外力を合せて掘出し切り抜るを第一とす
べし火災おおきものなれはなり是とても跡(あと)の揺(ゆり)つゝき気血
狂(くる)ひて働(はたら)きがたき時は梅干妙菜にて地気の毒まて
拂ふもの也又|煙(けむり)りにまかれて英雄(ゑいゆう)豪傑(こうけつ)も途を失ふこと
多し其時は布二重(え)を水にひたし顔(かほ)にあてへしいか
なるけふりの中も平日の如し是土伎文蔵と云軍慮
にかしこき浪(らう)人長寿(ちようじゆ)して度々の火事に試みたる所の
一|術(じゆつ)なり布なき時は袖袂(そでたもと)をしめして用をなすべし
物丈高きの住居手|厚(あつ)の殿舎(でんしや)崩れかゝるは容(やう)易なら