翻刻
に立(たち)たりしが、向(むか)ひの尾(を)よ
りも登(のぼ)る人ありて、御幸(みゆき)の
行列(ぎやうれつ)に異(こと)ならず、衣服(ゐふく)の模(も)
様(よう)も人の形(かた)ちもすべて相(あひ)
似(に)て見分難(みわけがた)き程(ほど)なりけれ
ば、天皇(てんくはう)これを見給ひて、此(この)
日本(につほん)にて吾(われ)ならでまた、王(わう)
なきに今かくの如(ごと)き行列(ぎやうれつ)
をなすものは誰(たれ)ぞやと問(とは)
しめ給ふに其答(そのこたへ)また同(おな)じかりければ、天皇|大(おほ)き
に忿(いか)り給(たま)ひて、御自(みみづから)ら弓(ゆみ)に矢(や)を番(つが)ひて射(い)んとし
たまひ、御供(をとも)の人々(ひと〴〵)も同(おな)じく弓(ゆみ)に矢(や)を番(つが)ひたり、
しかるに彼人々(かのひと〴〵)もまた弓に矢を番ひ射(い)んとし
ければ、天皇また各名(おの〳〵な)をなのりて矢を放(はな)たんと
言(いは)しめ給ひしに、葛城(かづらき)の一言主(ひとことぬし)の大神(おほかみ)なりと答(こたへ)
給ひ、終日(ひねもす)天皇と馬(むま)をならべて狩(かり)し給ひ、御帰(をんかへり)の
時(とき)は長谷(はせ)の山口(やまぐち)まで送(をく)り奉(たてまつ)りしといふことあり、
これは先(さき)の「ぶろけん」山(やま)の幽鬼(ゆうき)の如(ごと)く、天皇を始(はじ)