みんなで翻刻ver1

コレクション: STAGE3

変異辯 一名、天變地異拾遺 全 - 翻刻

変異辯 一名、天變地異拾遺 全 - ページ 20

ページ: 20

翻刻

世(よ)に蜃気楼|或(あるひ)は海市(かいし)と唱(とな)へて、海上(かいしやう)に楼閣(ろうかく)或は 市街(しかい)の形状忽然(ありさまこつぜん)として顕(あらは)るゝことあり、文政(ぶんせい)の 頃(ころ)紀伊国(きのくに)名高(なたか)の浦(うら)の海上に、ひとつの島(しま)を現出(げんしゆつ) し、其上(そのうへ)に楼閣(ろうかく)建連(たてつらな)り、その色(いろ)はすべて鼠色(ねづみいろ)にて、 恰(あたか)も墨画(すみゑ)の遠(とほ)山をみるがごとくなりしといひ、 また桑名(くはな)の入海(いりうみ)にて折々(をり〳〵)斯(かく)の如(ごと)きことありとい へり、西洋(せいよう)にても所々(しよ〳〵)に顕(あらは)るゝことあり、中(なか)にも伊 太利亜国(たりやこく)の「めしな」の瀬戸(せと)といふ所(ところ)には、格別(かくべつ)た び〳〵|顕(あらは)るゝといふ、其顕(そのあらは)るゝは常(つね)に風(かぜ)なく雨(あめ) 無(な)き日(ひ)にして、朝(あさ)日の高(たか)く 昇(のぼ)りし時、市街(ちまた)の高(たか)き所(ところ)よ り瀬戸(せと)の海面(うみづら)を見(み)れば、或(あるひ) は宮殿楼閣(くうでんろうかく)あり禽獣(きんじゆう)あり、 草木(さうもく)あり馬に騎(の)る人(ひと)あり、 車(くるま)に駕(が)する人あり立(た)つ人 あり歩(あゆ)む人あり、歴々(れき〳〵)とし て海水(かいすゐ)の上面(じやうめん)に顕(あらは)るゝと なり、これを伊太利亜国(いたりやこく)の