翻刻
を降(ふ)らし雷電(かみなりいなづま)を発(はつ)して、其音恰(そのをとあたか)も車(くるま)の石道(いしみち)を走(はし)
るが如(ごと)く、時(とき)によりては十条(とすぢ)も十五|筋(すぢ)も掛(かゝ)ること
ありて、船(ふね)などこれに行逢(ゆきあ)ふ時は、忽(たちま)ちに覆(くつがへ)され
或(あるひ)は巻上(まきあげ)らるゝことさへありて、船乗(ふなのり)の為(ため)には尤(もつと)
も恐(をそ)るべきものなり、若(も)しこれに出逢(であ)ひて避難(さけがた)
き場合(ばあひ)に至(いた)らず、速(すみや)かに大砲(たいほう)を打掛(うちかく)れば、其勢散(そのいきほひさん)
じて危難(きなん)を免(まぬが)るゝことあり、抑(そも〳〵)この顕象(あらはし)を天(てん)より
龍(りゆう)の降(くだ)りて潮(うしほ)を巻上(まきあぐ)るといふなれども、全(まつた)く然(しか)
るものにあらず、空(そら)の雲は陽(やう)の越歴(ゑれきとる)を含(ふく)み、海水(うみのみづ)
は陰(ゐん)の越歴(えれきとる)を含(ふく)み、其二(そのふた)
つの越歴|互(たがい)に相引合(あひひきあ)ひ
て、かゝる象(かたち)を顕(あらは)すなり
といふ、陽(やう)の越歴と陰(ゐん)の
越歴と、互(たがい)に相引逢(あひひきあ)ふこと
は、天変地異(てんべんちゐ)の雷除(かみなりよけ)の柱(はしら)
の条(じよう)に解(とき)たるが如(ごと)し、ま
た龍巻(たつまき)の水(みづ)は海(うみ)より昇(のぼ)
るにはあらで、空気(くうき)の中(うち)