翻刻
延元年彼(ゑんぐわんねんかの)一千八百五十九年の八月二十九日と
九月一日に北暁(ほくげう)の顕(あらは)れし時(とき)。仏蘭西国(ふらんすこくおよ)及び其他(そのほか)
の国(くに)にても。電信機(でんしんき)の鉄線(てつせん)に感動(かんどう)を起(をこ)し、合図(あいづ)の
鐘(かね)は長(なが)き間打続(あいだうちつゞ)けに打(う)ち。機関(からくり)の働(はたらき)も常(つね)ならず
して。便(たより)を通(つう)ずるに甚(はなは)だ難義(なんぎ)なりしといへり。先(さき)
に説(とけ)る説(せつ)のいよ〳〵|真実(しんじつ)なるを知(し)れりといふ
「えむ、で、ら、らいぶ」といふ人の説(せつ)に北暁の起(おこ)る所(ゆ)
以(ゑん)は。日(ひ)の熱気(ねつき)にて地中(ちちう)の二(ふた)つの越歴相離(えれきとるあひはな)れ。陽(やう)
の越歴は空中(くうちう)に昇(のぼ)り、陰(いん)の越歴は地(ち)にありて此(この)
二(ふた)つの越歴|北方寒冷(ほくはうかんれい)の所(ところ)にて相引(あいひい)て寄合(よりあは)んと
し、かゝる象(かたち)を現(あらは)すなりといふ、されば北暁(ほくげう)はい
づれにしても、越歴の働(はたらき)より顕(あらは)るゝものなれば
吉凶(きつけう)の兆(しるし)などには抱(かゝ)【拘の誤字ヵ】はらぬものと知(し)るべし
龍燈(りゆうとう)のこと
世(よ)に龍燈(りゆうとう)と唱(とな)へて、神社仏寺(しんしやぶつじ)などある山(やま)の樹木(じゆもく)
に火(ひ)の掛(かゝ)りて燈(もゆ)ることあるを。龍神(りゆうじん)より某(それ)の神或(かみあるひ)
は仏(ほとけ)に献(たてまつ)る燈明(みあかし)なりと言伝(いひつた)へたり、西洋(せいよう)にても
此類(このたぐひ)の火(ひ)を「せんと、えるもすふわいる」といひて