翻刻
夫木集(ふぼくしう)に伏見(ふしみ)に湯(ゆ)わかして
大納言(だいなごん)経信(つねのぶ)卿(きゃう)を呼(よび)侍(はべ)りけるに
来(きた)らざりければ読(よみ)て遣(つかは)しける
橘俊綱(たちばなのとしつな)
一志(いちし)なる岩根(いわね)に出(いづ)る七(なゝ)くりの
けふはかひなき湯にもあるかな
此(この)歌(うた)の心(こゝろ)は一志(いちし)の郡(こほり)七(なゝ)くりの湯(ゆ)は
貝(かい)ある所(ところ)の湯(ゆ)なるに待(ま)つ人(ひと)の来(こ)さり
ければ名(な)にも似(に)ずけふは甲斐(かひ)なきと
いへるこゝろ成(なる)べしかく七(なゝ)くりの湯(ゆ)に
貝石(かいせき)をのみあはすれば榊原(さかきばら)の湯(ゆ)を
七(なゝ)くりの湯とは知(し)るなり上古(しやうこ)は此(この)
辺|海(うみ)にて有(あり)しとぞ今 與文字(よもじ)の浦(うら)
坪(つぼ)の沖濱(おきはま)の田(た)などいふ字(あざな)残(のこ)りて