翻刻
【右丁】
老(オイ)たるも少(ワカキ)も神(カミ)を祈(イノル)者【「者」は挿入字】 も佛を念する人【「人」は挿入字】 も壹(ヒトツ)にぞ皆
震(フリ)にける【次の文字「其」を書きかけて見せ消ちにし左横に小さく「る」と記してある】 其 震(フル)さまは波(ナミ)のうつにひとしく其音
は落(オチ)かゝる雷(イカヅチ)の如し家居(イヘヰ) 傾(カタフ)き土蔵(クラ) 壊(ヤブレ)れ【「れ」が振り仮名と送り仮名とでダブっている。】 なとせ
しかば人みな外(ソト)に出(イデ)て立(タチ)さわぎつゝ震(フル)ことの
なほ止(ヤマ)ざれは其 夜(ヨ)は人皆【「人皆」は挿入字。】 街巷(チマタ)に群居(ムレヰ)て寝(ネ)もやらざ
りし其時の事を思へばいと恐(オソロ)しき事になもありける【本文「事に」に次いで「侍りし」を書くも、の各文字の左側に点々が付けて見せ消ちにし、「なもありける」が列記されている。】
其(ソレ)より以来(コノカタ)三月に満(ミツ)れと其 余波(ナゴリ)なほ止(ヤマ)ずて日(ヒ)
毎【本文に「々」を書きその左横に、点を打ち見せ消ちにし右横に「毎」を列記。】 に微(スコ)しつゝは震(フリ)にけるつら〳〵思ひみれば
地震(ヂシン)は神の所爲(ミシワザ)【ここからは割書になっているが、文が長いので一行書きにする。】
凡(オホヨ)そ人の為(ナサ)ずて天地(アメツチ)の間(アヒダ)に自(オノヅカラ)
なることは皆神の所為なり」其
【左丁】
事は予が神爲(シンヰ)辨(ベン)に委(クハシ)く云(イフ)【ここで割書終り。】
にて人の力以(チカラモ)ていかにとも為(ナス)べ
きこと能(アタ)はざればたゞ其 神爲(カミワザ)を恐れみ【「恐れみ」は挿入語。】 畏(カシコ)み奉(タテマツ)りて【「て」は挿入字。】 奢(オゴリ)を
省(ハブ)き己(オノレ)を慎(ツゝシ)むより外(ホカ)はなき事ぞかし【ここから割書になるが、文が長いので一行書きにする。】
天朝(ミカド)には地震は神(カミ)
為(ワザ)なること其 御伝(ミツタヘ) 【傳】 も有けるにや古(イニシ)へ地震神を
祭らしめ賜(タマヒ)ひ【「ヒ」が振り仮名と送り仮名でダブっている】し事古記に見え使(ツカヒ)を遣(ツカハ)して幣(ニギテ)を
伊勢の大神に幣を【「幣を」は挿入語】 奉り坐(マセ)し事も見えたり此度(コノタビ)の地
震にも伊勢の大神を祭らしめ賜ひ天朝には【「天朝には」は挿入語】 何事をも慎
み坐るよし伝(ツタヘ) 【傳】 聞ぬ然れども野人は何をも辨(ワキマ)へ
ず飲楽遊興を好み何につけても利(り)を得むこと
を旨(ムネ)と意(コゝロ)得て【「て」を見せ消ちにして、○から○まで、以下の長い文を挿入】○る世のありさまなれは此度の地震に就きても○いよ〳〵人 意(コゝロ)のあしくなりゆく
やうに思はれていとなげか は(○)【「は」の左に点を打ち見せ消ちにしているが、右に○を記しているので生きているのか】 しきことなりけ
る唐国(カラクニ)【國】 にも易の大伝【傳】 に鬼神 ̄ハ害_レ ̄メ盈 ̄ツ而福_レ ̄ス謙 ̄ニ とあり
神の御威【「の御威」は挿入語。】 を恐敬(オソレイヤマフ)は己(オノレ)を慎み奢(ヲコリ)【「オコリ」とあるところ】 を省(ハブク)にあることになむ【ここ迄で二行書き終り】
然て地震はいかなる神の所爲(ミシワザ)ぞといふに日本
現代語訳
【右丁】
老人も若者も、神を祈る者も仏を念ずる人も、皆ひとしく震動した。その震動の様子は波が打つのと同じで、その音は雷が落ちかかるようであった。家屋は傾き、土蔵は壊れるなどしたので、人々は皆外に出て立ち騒いでいた。震動がなお止まないので、その夜は人々は皆街路に群がって住み、眠ることもできなかった。その時のことを思うと、実に恐ろしいことであった。
それ以来三か月が経ったが、その余震はなお止まず、日々わずかずつ震動し続けている。つらつら考えてみれば、地震は神の御業である。(およそ人がなすのではなく、天地の間に自然に起こることは皆神の御業である。そのことは私の『神為弁』に詳しく述べている。)
人の力ではどうすることもできないので、ただその神の御業を恐れ畏んで、奢りを省き、自らを慎むより他はないことである。
【左丁】
(朝廷には地震は神の御業であることの御伝承もあるのであろうか、古代に地震神を祭らせになった事が古記に見え、使者を遣わして幣を伊勢の大神に奉られた事も見えている。この度の地震にも伊勢の大神を祭らせになり、朝廷では何事も慎んでおられるということを伝え聞いた。)
しかしながら民間の人々は何も弁えず、飲酒や娯楽を好み、何につけても利益を得ることを旨として心得ているという世の有様なので、この度の地震についても、いよいよ人々の心が悪くなっていくように思われて、実に嘆かわしいことである。
中国でも易の大伝に「鬼神害盈而福謙(鬼神は盈つるを害し謙なるを福す)」とある。神の御威を恐れ敬うのは、自らを慎み奢りを省くことにある。
そこで地震はいかなる神の御業であるかというと、日本では
英語訳
[Right page]
Both the old and young, those who pray to the gods and those who worship Buddha—all were shaken equally. The manner of shaking was like the beating of waves, and its sound was like thunder falling. Houses tilted and storehouses collapsed, so people all went outside and stood about in commotion. As the shaking still did not stop, that night everyone huddled together in the streets and could not sleep. When I think of that time, it was truly a terrifying thing.
Since then, three months have passed, but the aftershocks still have not ceased, continuing to shake slightly day by day. When I reflect carefully, earthquakes are the work of the gods. (Generally, what occurs naturally between heaven and earth, not by human action, is all the work of the gods. I have explained this in detail in my "Discourse on Divine Action.")
Since human power cannot do anything about it, we can only fear and revere this divine work, eliminate extravagance, and exercise self-restraint.
[Left page]
(The Imperial Court may have traditions regarding earthquakes being divine work—ancient records show that earthquake deities were worshipped in antiquity, and there are records of messengers being sent to present offerings to the Great Deity of Ise. For this earthquake too, the Great Deity of Ise was worshipped, and I have heard that the Imperial Court is exercising restraint in all matters.)
However, common people understand nothing and favor drinking and entertainment, making it their principle to seek profit in everything—such is the state of the world. Regarding this earthquake as well, it seems that people's hearts are becoming increasingly corrupt, which is truly lamentable.
In China too, the Great Commentary on the Book of Changes states: "Ghosts and spirits harm the full and bless the humble." To fear and revere the divine power means to exercise self-restraint and eliminate arrogance.
Now, as to what deity's work earthquakes represent, in Japan...