翻刻
となり其時に彼怨みを言たる妻女も本心に立帰り是は
申訳もなく次第夫迄には及ばざりしと気の毒さにとり
昇せて又其刃物に取付て自身咽を貫ぬきしとなり
一人のみか三人を其事に付て落命するも前世の因縁
ならんと皆人舌を巻けるとなり
地震奇談録
こたひの地震の及信事はし〳〵迄はいまた聞も定めす大江戸の
内たに余所はいかならむいさしらすたゞまのあたりいみしう
恐ろしともあさましとも覚へたる葛飾のかたほとり石はら
の里わたりの有さまを聊かかいしるす俳諧の長歌幷反歌五首
やすらけく まつりこつてふ 名にし負ふ 年の二とせ 神無月 二日の宵の
長閑にて 人静まれと 灯火を 猶も挑けて 文机に 《割書:よりそふ|なへに》
ゆくりなく 物なりいてゝ なゐふるを 《割書:そよやと|いひも》 やらぬ間に 《割書:鳴かみの|こと》
轟きて 壁もつい地も 塗こめも 土に瓦に 木葉なす 《割書:山おろし|して》
家ことに つかも柱も 砕くれば うつ梁落て あとさけふ 数の人の
ひと声に あはれをこめて はかなくも 親に妻子に よひまよふ 三声のましら
夜の鶴 腸たゆる おもひかな 夜はうは玉の 闇のうちに 遠近となく
煙たぢ 焰もえきて おもかじゝ 広こり行ば 昼のこと 風の火花は