翻刻
【右丁】
リ後ニハ黒キ砂大夕立ノ如ク降来テ終夜震動
シ戸障子ナドモ響キ裂暗キ事昼夜ヲ分タズ物
ノ相色モ見ヱ分ネハ悉家々ニ燈ヲトボシ往来
モ絶々ニ適通行ノ人ハ此砂ニ觸レテ目クルメ
キ怪我セシモ有トカヤ諸人何ノ所以ヲ知サレ
バ是ナン世ノ滅スルニヤト女童ハ啼サケブ翌
日ニ及ヒ冨士山焼ノヨシ注進有テコソ始テ人
心地ハツキニケル砂降積ルコト凡七八寸所ニヨ
リ一尺餘モ積リシトゾ畢テ砂ヲ掃除ストイヘ
トモ板屋杯ハ七八年ノ後マテ風ノ折ニハ砂ヲ
【左丁】
吹落シ難義ナリシヨシ右ノ刻駿州冨士郡ヨリ
注進ノ趣
咋廿二日昼八時ゟ今廿三日迄之間地震間も
無く卅度程ゆり民家夥敷潰れ申候扨廿三日
昼四ッ時ゟ冨士山夥敷鳴出冨士郡一面に響渡男
女絶入仕者多候へとも死人は無御座候然處山上ゟ煙夥
く巻出し山大地共に鳴渡冨士郡中一面に煙渦
巻候故いか様之訳共不知人々十方を失ひ罷在候
昼之内は煙斗相見へ候處夜に入候はゝ一遍に火㷔に
相成候其以後いか様に成候哉不奉存候先石焼出之
現代語訳
【右丁】
その後には黒い砂が大夕立のように降ってきて、終夜震動し、戸や障子なども響いて裂け、暗いことは昼夜の区別もつかず、物の色合いも見分けられないので、悉く家々に灯火を点し、往来も絶え絶えになった。たまたま通行する人はこの砂に触れて目がくらみ、怪我をした者もあったという。諸人は何の理由かも知らないので、「これは世の終わりではないか」と女子供は泣き叫んだ。翌日に及んで富士山が噴火したとの注進があって、初めて人心も落ち着いた。砂の降り積もったことは凡そ七、八寸、所によっては一尺余りも積もったという。ついに砂を掃除するといっても、板屋根などは七、八年の後まで風の折には砂を
【左丁】
吹き落として難儀であったという。右の刻、駿州富士郡より注進の趣旨は次の通りである。
「昨二十二日昼八時より今二十三日までの間、地震が絶え間もなく三十度ほど揺れ、民家が夥しく潰れました。さて二十三日昼四つ時より富士山が夥しく鳴り出し、富士郡一面に響き渡り、男女で気絶した者が多くおりますが、死人はございません。然るところ山上より煙が夥しく巻き出し、山も大地も共に鳴り渡り、富士郡中一面に煙が渦巻いているため、どのような訳かも分からず、人々は途方に暮れております。昼の内は煙だけが見えておりましたが、夜に入れば一面に火炎となりました。その以後どのようになったか存じ上げません。まず石が焼け出したことを