翻刻
【右頁】
の垢(あか)を取(とる)にしかず
掻破(かきやぶ)りの用心のこゝろへの事
凡(およそ)かきやぶりも膿(うみ)に成て後(のち)は少(すこ)しも邪广(じやま)にな
らず痘(いも)の内に一粒(ひとつぶ)甚(はなは)だかゆきあり夫(それ)に付て外(ほか)
の痘(いも)を損(そん)ずる故也水もりの頃(ころ)あやまりて掻破(かきやぶ)る
時は直(す)ぐにうどんの粉(こ)をふり掛(かくる)べし又/荊芥(けいがい)をこ
よりにひねり込(こみ)て火を付(つ)けかゆき痘(いも)の先(さき)へ火を
当(あ)つればかゆみはとまるなり
一角(うにこうる)の事(こと)
古(いに)しへより痘(いも)に藥(くすり)なしと云(いふ)事ありしかし一角(うにこうる)は
【左頁】
毒(どく)けしの物にて痘(いも)には妙(めう)なり夫(それ)故(ゆへ)に發熱(ほつねつ)より
鮫(さめ)にておろし両(りやう)三/度(ど)程(ほど)づゝ白湯(さゆ)にて用(もち)ゆべし扨又
柳(やなぎ)の虫(むし)も痘(いも)の毒(どく)を肌(はだ)の外(ほか)へ追(お)ひすかすの功(こう)有
此/品(しな)もはやく用ゆべし又/煎(せん)じて虫(むし)を去(さ)り呑(のむ)べし
又テリアカの類(るい)痘(いも)の妙薬(めうやく)也/良薬(りやうやく)あまた有と
いへども用ひがたし痘(いも)は藥(くすり)を用(もちい)て害(がい)ある事(こと)有
悪(あ)しき痘(いも)になれば藥(くすり)も益(ゑき)なし中痘(ちうとう)はかへつて
藥(くすり)の為(ため)にあやまる事(こと)ありたゞ大切(たいせつ)に慎(つゝし)むべし
附録
麻疹(はしか)心得(こゝろへ)の事
現代語訳
【右頁】
の垢を取るにしかず
掻き破りの用心の心得の事
およそ掻き破りも膿になった後は少しも邪魔にならない。疱瘡の最中に一粒が甚だしく痒い時があり、それに付いて他の疱瘡を損なうからである。水膨れの頃、誤って掻き破る時は、すぐにうどん粉をふりかけるべきである。また荊芥をこよりにひねって火をつけ、痒い疱瘡の先に火を当てれば痒みは止まる。
一角(犀角)の事
古くから疱瘡に薬なしという事があったが、しかし一角は毒消しの物で疱瘡には妙薬である。それ故に発熱より鮫皮でおろし、両三度程ずつ白湯で用いるべきである。さてまた柳の虫も疱瘡の毒を肌の外へ追い出す功がある。この品も早く用いるべきである。また煎じて虫を去り飲むべきである。またテリアカの類は疱瘡の妙薬である。良薬は数多くあるといえども用いがたい。疱瘡は薬を用いて害がある事がある。悪しき疱瘡になれば薬も益なし。中等の疱瘡はかえって薬のために誤る事がある。ただ大切に慎むべきである。
【左頁】
附録
麻疹の心得の事