翻刻
陸風(りくふう)、海風(かいふう)、
暖国(だんこく)の海浜(かいひん)に在て、朝九時(あさくじ)より午時(ごじ)まで、海(うみ)より
陸(りく)に向(むか)ひて吹(ふ)き、また地(ち)に依(よつ)ては晩(ばん)に到(いた)るまで
吹(ふ)く事あり、之を海風(かいふう)と云ふ、しかる後(のち)|方向(はうこう)を変(へん)
じて、陸地(りくち)より海(うみ)に向(むか)ひて吹(ふ)く、之を陸風(りくふう)といふ、
此風(このかぜ)は陸(りく)と海(うみ)と熱度(ねつど)の等(ひと)しからざるより起(おこ)る
ものなり、
不定風(ふていふう)、
不定風(ふていふう)は其名(そのな)を得(え)たるが如(ごと)く、其|期限(きげん)、方向(はうこう)、勢力(せいりよく)
みな規律(きりつ)あらず、其|原由(げんゆ)を窮(きは)むる甚だ難(かた)し、何(なん)と
なれば斯(かく)の如(ごと)く空気(くうき)をして不定(ふてい)の流動(りくどう)をなさ
しむるには、数端(すたん)の事物(じぶつ)ありて、或(あるい)は其(その)|事物(じぶつ)|一時(いちじ)
に其|作用(さよう)を為(な)し、或(あるい)は相反(あいはん)して挙動(きよどう)する等(とう)のこ
と、盡(こと〴〵)く之を弁(べん)ずる能(あた)はざればなり、〇不定風(ふていふう)|或(あるい)
は特種(とくしゆ)の性(せい)あるものあり、即(すなは)ぢアラビヤ【アラビヤの左に傍線】及(およ)びア
フリカ【アフリカの左に傍線】の砂漠(しやばく)より吹(ふ)く所(ところ)の熱風(ねつふう)|是(これ)なり、この風(かぜ)
はアラビヤ【アラビヤの左に傍線】にては「シムーン、」また「サメール」と云
ひ、イタリー及びシゝリー【シゝリーの左に傍線】にては、「シロコ」と唱(とな)へ、
天然地理学 巻之二 三十七