翻刻
小金井の花にあこがれたは連歌の友とちを尋ねつゝ桃花
の岸に船をうかめ歌よみ暮して其夜は玉川のわたりに宿りしが
大江戸の方に火有と聞て前なる山に登りて見れは東の大空
光明丹をぬりたるが如しやがて筏士(いかたし)の江戸より帰りて高
なはの浦べより浅|茅(ち)が原のはて迄焼にけりと語りぬさればよと
興(きよう)さめ胸打つぶれつとめて家路に急ぎしが雨いたう降て
苦しきこといはん方なしおのれ亥の歳のうまれなれは寅年は四ツめの
的殺(てきさつ)なるを其頃は何の覚悟(かくご)もなかりし也さきに相見(さうみ)のいひし
ごとく我身一つは其|禍(わさはい)をまぬかれしが家くらをは灰になしぬ其
|兆(きざし)有しことを知りつゝも全くのがるゝ事よと思ひて旅寝をも
つゝしまざるは愚(おろか)なる身の誤(あやま)り也又爰に何某ことし弥生
廿一日弘法大師の縁日なれば六郷さして立出る道にて辻駕籠(つじかこ)
に乗(の)らんとせしが短刀の身ぬけ落たるに驚(おどろ)きて心|進(すゝま)ず
とみに物もふでをば思ひ止(とど)まりかご舁(かく)ものには酒のしろに