翻刻
を尽して長押(なげし)造りの書院三階の土蔵宝形の屋根等は
下賎の身分に応(おう)ぜず冥罰(めうばつ)を蒙(かふむ)る事をしらさるもの也
又火災に逢ふても其以前に倍(ばい)して手厚き家作をなす
こと誠に歎(なげか)はしき事也殊に婦人のつふり道具に大金をつい
やせども魔除(まよ)けにもならずはき物類下帯に至る迄高料
の品望み次第也いかなる珍宝名器也とも土蔵共に一時の
烟りと成ては涙(なみだ)のこほるゝ斗り無益の最上にして金銀の冥
理をしらさる人多し火災の事を思へは万事可成にしてよからんか
一町家にても熨斗(のし)目以上御用達の妻ならば婚姻の節地白
地黒のうちかけを着したりとも苦しからず然るに夫(をふと)は服紗小袖
にて妻は綸子(りんず)を着用するたぐひは御定めをも弁へず金銀
の有に任せて格式をおかせども御咎めもなく告るものも無
き故其非をしらざるもの多し
一上方の着倒れといへとも関東町家の婦女の衣類に及はず