翻刻
腹臓表裏(ふくぞうへうり)に貫徹(くわんてつ)するが故(ゆへ)に其症適度(そのせいてきと)するに於(をゐ)
ては万病(まんびやう)を治(ぢ)すとは已(すで)に医薬(ゐやく)も及(およ)はざるに似(に)
たり病(やまい)ある人(ひと)は言(い)ふまてもなし世(よ)の人温泉(ひとをんせん)を
只等閑(たゞなほざり)に思(おも)ふべからず
茲(こゝ)に宮城県磐城国刈田郡白石町(みやぎけんいわきのくにかりたこおりしろいしまち)より西(にし)へ距(へだ)つ
道一里半(みちいつりはん)にして福岡村(ふくおかむら)元蔵本村|鎌先温泉(かまさきをんせん)あり其(その)
縁起(えんき)に言(い)ふ人皇(にんわう)百三代|称光院(しやうくわういん)の御宇正長元戊(kいようせうちやうくわんつちのへ)
申歳(さるのとし)四月八日となん白石(しろいし)の樵夫此山(ぜうふこのやま)に入(い)り偶(ぐう)
渇(かつ)して飲(いん)を求(もろ)めんと沢辺(さわべ)に下(くだ)りて鎌(かま)を以(もつ)て巌(いわ)
の隅(すみ)を少(すこ)し穿(うが)ては則(すなは)ち温泉沸(をんせんわ)き出(い)つ流(なか)る人試(ひとこころ)
みに是(これ)に浴(よく)せは諸病速(しよひやうすみや)かに愈(い)ゆ故(ゆへ)に聞(きく)もの道(みち)
を遠(とほ)しとせず来(きた)りて浴(よく)する者多(ものおほ)し人以(ひろもつ)て天(てん)の
与(あた)ひとし鎌(かま)の先(さき)にて穿(うか)ち得(え)し温泉(をんせん)なればとて
此地(このち)の名称(めいしやう)を鎌先(かまさき)と云(いふ)となん其泉上(かのせんじやう)に|薬師(やくし)の
閣(かく)を建祀(たてまつ)りて則(すなわ)ち地主神(ちぬしかみ)とし永(なが)く栄(さか)ゑんこと
を祈(いの)りしが僅(わつか)に二十|有(いく)七|年(ねん)を経(へ)て康|正元乙亥(しやうくわんきのとのい)
歳(とし)の秋大浸(あきおほみつ)のため山崩(やまくつ)れ石墜(いしを)ち終(つ)へに温泉(おんせん)を
埋(うつ)み絶(た)ひて跡(あと)なし斯(かく)て一百二十五年の青黄(せいわく)を
易(か)ひて天正(てんしやう)七|己卯歳(つちのとのうのとし)に当(あた)り其畔(そのほと)りに一苾蒭(いつひつすう)あ
り是(これ)を告寿山安全寺(こくすさんあんぜんじ)と云(い)へり夢(ゆめ)に仏陀(ぶつだ)の瑞奇(ずいき)