翻刻
【右上】
本網
天南星《割書:虎掌 虎骨 鬼蒟蒻|和名ヲオソヒ》
【右下】
嘉永元申年九月八日
登武州高尾山採二
種雪持草帰園中
養之同年両種開花
三月廿一日真写之
高尾山中ニ生ル雪持草ハ南星ニテ雪持草ニ
非ラス当山ノ方言ナレハ不改 〇元寿謹日国俗天
南星ト称ル者ハ一茎一花ニテ花中ヨリ単尾ノ如
キ者ヲ出ス此即山蒟蒻也南星ハ一茎両対
茎椏ノ中ヨリ花ヲ抽テ花中ニ単尾ノ如キ者無キ
ヲ天南星トス其花青白色形状相同キ物ヲ
白南星ト云葉茎両対相同シ本草一家言ニ
南星ノ実有_二紅白 ̄ノ二種_一白実ノ者ヲ白南星
と云々 〇亦云山蒟蒻ハ一茎掌ノ如ク葉ハ山野ニ
花ヲ抽ス投対生セス山蒟蒻ハ山野ニ
生ス南星ハ希也た高尾山中多ク
生ス近郊山中ニ未見之
【左上】
雪持草《割書:高尾山産|同所方言》
【左下】
古人ノ言ルヿ有リ街ノ談巻(モノカタリ)ノ説モ猶有_レ可_レキヿ採 ̄ル又児雅ノ国訛
有_レ可_レヿ用 ̄ユ訛謬猶遺ル者今焉ヲ正サント欲ス然トモ
本朝古書ノ不_二 ̄ルヲ多 ̄ク伝_一而無_レ可_三 ̄キ以 ̄テ為_二 ̄ナス之 ̄ヲ證_一 ̄ト故ニ疑クハ以
テ伝_レ ̄フ偽 ̄ヲ不_二 ̄ス敢 ̄テ容易 ̄ニ名 ̄ヲ防_一 ̄メ焉異者ハ皆 姑(シハラク)国言
ノ依_レ ̄ル古 ̄キニ矣蓋シ存_レ ̄レハ古(イニシヘヲ)也
現代語訳
【右上】
本草
天南星《割注:虎掌 虎骨 鬼蒟蒻|和名をおそい》
【右下】
嘉永元年申年九月八日
武州高尾山に登り、
雪持草二種を採って園中に
持ち帰り養った。同年両種開花し、
三月二十一日真写した。
高尾山中に生える雪持草は南星であって雪持草で
はない。当山の方言なので改めない。〇元寿謹んで記す。俗に天
南星と称するものは一茎一花で、花中より単尾の如
きものを出す。これが即ち山蒟蒻である。南星は一茎両対で、
茎の又の中より花を抽き、花中に単尾の如きものが無い
ものを天南星とする。その花が青白色で形状が相同じものを
白南星という。葉茎は両対で相同じである。本草一家言に
南星の実には紅白の二種があり、白実のものを白南星
という云々。〇また言う。山蒟蒻は一茎で掌の如く、葉は山野に
花を抽く。対生しない。山蒟蒻は山野に
生ずる。南星は稀である。ただ高尾山中に多く
生ずる。近郊の山中にはまだ見ていない。
【左上】
雪持草《割注:高尾山産|同所方言》
【左下】
古人の言うことがある。巷の談話(物語)の説もなお用いるべきことがある。また児雅の国訛も
用いるべきことがある。訛謬でもなお遺るものを今これを正そうと欲する。しかしながら
本朝古書の伝わらないものが多く、証拠とすべきものが無いため、疑わしいものは以て
偽りを伝えることになる。敢えて容易に名を改めない。異なるものは皆しばらく国言
の古きに依る。思うに古を存するのである。