翻刻
【みん翻と無関係に作ったものを転載しているため、ふりがなと、適切な改行を欠く状態です】
らかんの前に。香花などとりてゐけるに。こびたる世俗二三人。らかんを見物し。みな〳〵人さりうせけれ共。此者はつく〳〵と見おりて。扨かの僧に問けるは。此五百らかんに一々名こそおはすらん。御坊は定て。御存ぢあらん。うけ給はりたしと申ければ。此僧三尊の外は一体も名をしらざりければ。何共者はいわずして。方丈へにげ入ける。
折節一休その寺にゐ給ひて。かの僧に何事にやと聞給へば。しか〳〵と申さるゝ。一休のたまひけるは。いらざる僧のとがめことや。かくて芸にもならざる事。たれか覚へ侍らん。我も一々しらね共。あらましいひ聞すべしとて。らかん堂へすゝみ出て。こなたへ物申さん。らかん達の名を聞度思し召かと仰られければ。おそれながら承はりたしと申ける。さらば一々とひ給へ。先真中なるは。しやかむに。左なるは。かしやう。右なるは。あなん。扨次はと問へば南無さたんたと。其次はと問はすきやとや。其次はと問ば。おらこちと。一々しり給はねば。れんげじゆにて答給へば。五百らかんの事はおき。百貫らかんをとふ共。何かはつまり給ふべき。かのぞく悉くとひて。扨もよき御覚へかなと申ければ。さもなく候。いにしへは一巻ばかりは。中に覚へて候へ共と仰られければ。笑ひて帰りけると也。
されば時にとつて頓作なる御心入と。人みなかんじけると也。問て用にたゝず覚ても用にたゝぬ事をば。いわざるにまさるめでたし。よしなき