翻刻
仰られければ。祖父祖母との咄よりしらぬ我
なれば。果しこまりたりとは申せ共。山へ洗だくし
に。川へ柴かりにと申ければ。ふるめかしの咄やな。
いで此寺の先師一休和尚の放気咄して聞す
べしとて。ひた物かたり給ふを聞ば。我も人も覚へ
たるはかたことまじはりなり。扨も面白や。有がたやと
思ひて。忘れては大事也と。葛紙の雑紙の皺を
にばす、書付帰りてみれば。えこらへぬ者也。又参り
て承り。そろり〳〵と鼠の塩なむるがごとく。聞
覚へ帰りては猫の爪とぐがごとく書付二三冊と
なして一休咄と名付秘してけるが。或時又御寺
へ参りおかしき達に問けるは。扨も一休和尚はい
かなる御僧やらん犬うつ童。牛つかむ男まてよく
知申候といへば。それ一休和尚は後小松院の二宮なり。世
人の口に有歌にも。後小松の二葉と詠ぜられけ
る也。誠いともかしこき人にてまし〳〵けるが。高き御位
をもふみちらし。大内を跳出て。十宗をたゞ一目に目
眼付。達摩宗となり給ひて。九年面壁をも賊の
あとの棒ちぎり木と見立て。其身はあさがら程
にも思はず。うき世をば。へうたんよりかるくもてな
し。邪なる萌なく。竹二つにわりたるがごとくの御志な
りし也。路人の碑にあれば舌の頂の隙とし侍ると