翻刻
【右丁】
よくおさむら
いさまを
どろぼうに
しおつた ひげなてとやらかみなでとやらが
あるか いめへ【「ゑ」とあるところ】ましい【「いめえましい」=「いまいましい」の変化した語】むたな
や
らう
だ
むだの
すけは
とうざの
りに
つまり
さん〴〵
てうちやく【打擲】に
あふ
【右丁 下段】
する
こと
なす
こと
むだ
のす
けと
なつ
たか
とと【「まことに」の意】
ざん
ねん
だ
【左丁 上部】
ゆふにこゝろ
もみたれ
がみ くしの
あて【櫛の当て】
なとも
なま
なかに【上の空に】
あふわ
なみだか
みづ
がみを
むすび
あげ
たる
しまだ
わけふたりがなかの
こまくら【「小枕」=婦人の結髪用具。かもじの根につけて自髪と結合する道具】や なをして
みたきもとゆいも
たゞ一トすじにかみ
かけて【神かけて<髪との掛詞>】こゝろの
たけをいのる
みやしろ
【左丁 中段】
こちの人かなら
ずはやまつて
くださんすな
【左丁 下段】
たしかに
それと思ひの
ほか やつこぶざ
へいめがこゝろ
にくい
現代語訳
【右丁】
「よくもお侍様を泥棒にしおった。髭撫でとやら髪撫でとやらがあるか。忌々しい無駄野郎だ」
無駄之助は当座の理につまり、散々打擲を受ける。
【右丁 下段】
することなすこと無駄之助となったかと、まことに残念だ。
【左丁 上部】
夕べに心も乱れ髪、櫛の当てなども上の空に、ああ涙か水か、髪を結び上げた島田髷、分け二人が中の小枕やなをして、見たき元結いもただ一筋に髪かけて(神かけて)心の丈を祈る宮代。
【左丁 中段】
「こちらの人かならず早まってくださいますな」
【左丁 下段】
確かにそれと思いのほか、奴小武左衛門が心憎い。