翻刻!草双紙の世界

コレクション: NDL鳥居清長

富多高慢噺 3巻 - 翻刻

富多高慢噺 3巻 - ページ 6

ページ: 6

翻刻

【右丁 上部】 こ【「か」とあるところ】うまん はとかく かねが たいせつ になり つきあい をしては むだが おほひ と一人 あるき 大しろ らくわん おんの おくやま がいにしへ のなかの 丁より おもし ろいと それより むかうじま へわたり あきは【秋場=秋の頃、または向島「秋葉大権現社」ヵ】の やまそこ 【左丁 上部】 こゝとぶらつく おりしもいづれ よりかしらべあら そふことのね【音】に われしらずおく やまのかたへたどり ゆくに一人のろうじん なり かうまんもさすが大へい【横柄】にも でられずおまへさまはどなたさまと とへばわれはこのやまにすむとをりてんと いふものなりなかまうちのくめぼうは はきのしろきみてつうをうしのふ 【歌舞伎・浄瑠璃「久米仙人吉野桜」の逸話参照】 さすれはせんにんでさへつうといふことは あることなり まして人げんのみとして つうをきらいやぼつたくかねを ためるはさりとは りやうけん【了見】ちがい わがつうりき【理義=道理であり正義であること】をもつてつうと ふつうのしよわけ【諸分】をさくみだ がこんたん【魂胆=いろいろと工夫をすること】にとりくみ そのほうがまよいを はらさんと     ものがたる 【右丁 中央部】 おれをたちばな丁【橘町=東京日本橋三丁目付近の旧地名、江戸時代この界隈にいわゆる転び芸者が多く住んでいたという】 だとおもつてこゝまで きたかてめへも おんなにはよつほど こう〳〵 【孝行、または「病膏肓に入る」=病的に好きの意ヵ】    だそ 【右丁 下部から左丁 下部】 あのつま おとではよつほど ひなもの【鄙者=田舎もの 】と 思ひのほか とんだ てんちがい【合点違い=思い違い、了見違い】     だ

現代語訳

高慢はとかく金が大切になり、付き合いをしては無駄が多いと一人歩きし、大白楽観音の奥山が昔の仲の町より面白いと、それより向島へ渡り、秋葉の山裾をぶらつく。 折しも、どこからか調べ(音曲)のような音に、我知らず奥山の方へたどり行くと、一人の老人がいた。高慢もさすがに横柄にも出られず、「お前様はどなた様か」と問えば、「我はこの山に住む通り天という者なり。仲間うちの久米坊は白い脛を見て通を失った。それならば仙人でさえ通ということはあることなり。まして人間の身として、通を嫌い野暮ったく金を溜めるのは、さりとは了見違い。我が通理義をもって通と普通の諸分を裂き乱す魂胆に取り組み、その方の迷いを晴らそう」と物語る。 「俺を橘町だと思ってここまで来たか。てめえも女にはよっぽど病膏肓に入っているそうだ。」 「あの褄音では、よっぽど田舎者と思ったが、思いの外とんだ合点違いだ。」

英語訳

The arrogant man increasingly valued money above all else, thinking that socializing would only lead to waste, so he walked alone. Finding the inner mountain of Daihaku Kannon more interesting than the old Naka-no-cho district, he crossed over to Mukojima and wandered around the foothills of Akiba. Just then, hearing what sounded like music coming from somewhere, he unknowingly made his way toward the inner mountain, where he encountered an elderly man. Even the arrogant man couldn't act too haughty and asked, "Who might you be, sir?" The old man replied, "I am one called Tori-ten who dwells in this mountain. Among my companions, the monk Kume lost his spiritual powers upon seeing white shins. If even immortal sages can be concerned with sophistication, how much more so for ordinary humans! To despise sophistication and boorishly hoard money is truly a misguided view. With my understanding of true principles, I shall work to distinguish between genuine sophistication and ordinary matters, and clear away your delusions," he began to tell his tale. "Did you come all this way thinking of me as someone from Tachibana-cho? You too seem quite obsessed with women." "From that way of speaking, I thought you were quite the country bumpkin, but what an unexpected misunderstanding this is."