東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

女学範 - 翻刻

女学範 - ページ 17

ページ: 17

翻刻

【右丁】 つね(常)の うた(歌)を短哥(たんか)といふ。 旋頭哥(せんどうか)は。つね(常)のうた(歌)に。また一 句(く)を くは(加)ふるなり。 混本哥(こんぽんか)は。つね(常)の うた(歌)に。一 句(く)たらす。五七五七とつらぬるなり。 折句(をりく)は。つね(常)の うた(歌)にて。句(く)ごとの はじめ(首)に。もじ(文字)をおくなり。 沓冠(くつかうふり)は。句(く)ごとの かみ(上)しも(下)に じ(字)をおくなり。 古今集(こきんしふ)に いだ(出)せる短哥(たんか)を一首(いつしゆ)こゝにのす。  七条の きさい(后)うせたまひにける のち(後)によみける 伊勢 おきつなみ  あれのみまさる  みやのうちは  としへてすみし いせのあまも ふねなかしたる  こゝちして   よらむかたなく かなしきに  なみたのいろの  くれなゐは   われし【「ら」の誤】かなかの しくれにて  あきのもみちと  ひと〳〵は   をのかちり〳〵 【左丁】 わかれなは  たのむかけなく  なりはてゝ  とまるものとは はなすゝき  きみなきにはに  むれたちて  そらをまねかは はつかりの  なきわたりつゝ  よそにこそ見め 十 体(てい)とは 有心体(うしんのてい) 長高体(たけたかきてい) 可然体(しかるべきてい) 見様体(みるやうのてい) 一節体(ひとふしありてい) 拉鬼体(おにとりひしぐてい) 麗体(うるはしきてい) 面白体(おもしろきてい) 濃体(こまやかなるてい) 幽玄体(いうげんてい)を。わか(和歌)の十 体(てい)といふなり。 八 病(びやう)とは同心(どうしん)。乱思(らんし)。欄蝶(らんてふ)。渚鴻(しよこう)。花橘(くわきつ)。老楓(らうふう)。中飽(ちうはう)。後悔(こうくわい)。の やくさ(八種)をいふなり。同心病(どうしんびやう)とは。おなじことの。二 句(く)にあるを いふなり。乱思病(らんしびやう)とは。ことば(詞)いう(優)にしてそへよめるなり。欄蝶(らんてふ) 病(びやう)とは。もと(本)の 句(く)よく(好)てすへ(末)の 句(く)あらき(疎)なり。渚鴻病(しよこうびやう)は。ひ(偏) とへに だい(題)にひかれて。ことば(詞)らうせ(不労)ざるなり。花橘病(くわきつびやう)は。す

現代語訳

【右丁】 普通の歌を短歌という。 旋頭歌は、普通の歌にもう一句を加えたものである。 混本歌は、普通の歌に一句足りない。五七五七と連ねるものである。 折句は、普通の歌で、句ごとの初めに文字を置くものである。 沓冠は、句ごとの上下に字を置くものである。 古今集に出されている短歌を一首ここに載せる。  七条の后が亡くなられた後に詠んだ 伊勢 沖つ波  荒れのみ増さる  宮の内は  年経て住みし 伊勢の海人も 船流したる  心地して  寄らん方なく 悲しきに  涙の色の  紅は  我しらなかの 時雨にて  秋の紅葉と  人々は  おのが散り散り 【左丁】 別れなば  頼む影なく  なり果てて  留まるものとは 花薄  君なき庭に  群れ立ちて  空を招かば 初雁の  鳴き渡りつつ  よそにこそ見め 十体とは有心体・長高体・可然体・見様体・一節体・拉鬼体・麗体・面白体・濃体・幽玄体を、和歌の十体というのである。 八病とは同心・乱思・欄蝶・渚鴻・花橘・老楓・中飽・後悔の八種をいうのである。同心病とは、同じことが二句にあることをいうのである。乱思病とは、言葉が優雅でありながら添えて詠んだものである。欄蝶病とは、元の句は良いが末の句が粗いものである。渚鴻病は、偏に題に引かれて、言葉が苦労していないものである。花橘病は、