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コレクション: Code4Lib JP

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - 翻刻

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - ページ 123

ページ: 123

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220      感染及び免疫に於ける感作物の意義 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ないであらうか?  吾人が経口免疫に行つた研究を調査する前に、最初の時にこの考の範囲内 にあつた既に古くなれる実験を簡単に申し述べやう ; 之は15年以上をさかの ぼる。之は最初の経口的「チフス」予防接種であつた ; 之は Metchnikoff 及び 吾人自らによつて類人猿に実施されたのである。  種々の「チフス」予防 Vaccins の価値を試験する目的を以て、類人猿につい て研究せる際、吾人は猖々に生きた毒力の強い「チフス」菌を摂取せしめた。 この動物は既に前に経口的に加熱「チフス」菌を受けたのである。然し吾人は ――之は1910年であつた――正常動物と考へた、それは加熱菌を摂取した 事実は免疫の痕跡に過ぎぬと考へ得らるることはほんの瞬間も承認すること が出来なかつたからである。吾人の猖々はそれ故――吾人の考では――恰も 完全に新しいものの如く、腸「チフス」に罹患すべきであつた。然るに之は何 の障礙も起すことなく止まつた。  局所免疫の考は当時は吾人の希望に影響を及ぼす事が出来なかつたので、 此の結果は全く吾人を困惑させた。事実は少からず明白であつた。他の猖々 を手に入れることが可能であつたので、吾人に残されたことは事実を記載す るだけであつた。たとへ per os による実験的予防接種の最初の例を観察す ることがかかる風に Metchnikoff 及び吾人に残されてあつたとしても、之は 全く意外であつてそれについて吾人の例に何等の価値もなかつたのである。  翌年(1911年)、経口的予防接種の同様なる実験が、J,Courmont et Rochaix により、3年遅れて(1914年)A,Lumière et Chevrotier により、実験室内 動物について繰り返へされた。その頃、同種の試験が独逸に於て一連の学者 達―Loeffler, Kutscher et Meinicke, Wolf, Bruckner により「パラチフス」菌 の培養を以て追求された。あらゆる実験が嚥下せる之等の菌に対し特に感受 性大なる動物なる「マウス」に実施された。            *  *  *  之等の研究を綜合すると、一定の研究条件に於ては経口的予防接種は実現 性あることを知るに至つた。之等の条件の正確に決定すること並びに動物に          感染及び免疫に於ける感作物の意義    221 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 於て免疫経過中に起ることを更に厳重に検査することは保留する。普通一般 の考があるので、特に血清の抗体含有量を追求しなければならない。体躯倭【矮】 小なる「マウス」はこの種の研究には不適当であるので、吾人は家兎を使用す ることにした。  第一歩に於て、吾人は大なる困難に遭遇した。吾人は「マウス」及び猖々と は異り、家兎は経口的には「チフス」又は「パラチフス」感染に対し予防接種さ れぬことを認めた。吾人は無益に家兎に加熱菌のみならず、更に生きた毒力 強き菌を嚥下せしめたが、家兎は免疫性の獲得を拒否した。嚥下されたる菌 は少しも停滞することなく速かに腸を通過する、恰も雑菌に対する場合の如 くである。  「パラチフス」感染に於ける腸壁の意義に就ては吾人の以前の実験にはなき 所であり ; 他面に於ては、胆汁の付加をなし得る方法を知つてゐるので、吾 人は遂に胆汁を免疫に使用せんとの考に到達した。吾人はそこで先づ腸の上 皮を磨き、かくして腸壁の透過性を変化し、次いで、経口的に生「パラチフ ス」菌を投与せんことを提唱した。  明かに、胆汁で処置された腸は嚥下せる菌を吸着することが出来ることを 示した、従つてかく処置された家兎は強いて血液内に入れたる菌の致死量に 抵抗することが出来る様になる。  この結果は多数の要項に対して得る所が極めて多かつた。先づ、胆汁を予 め嚥下することは免疫形成に極めて必要なること ; 次に、この免疫が経口的 に得られたと同一なる機転は吾人の新天地を示した。  この実験の実際的価値に関しては、勿論零であつた。その興味は純学理的 であつた、何人も生菌の服用を予防接種の手段として推称する考を抱いてゐ なかつた。  然しこの実験より励まされて、吾人は、他の条件は全部同一にし、生菌に 代ふるに死菌を以てする場合に、何のやうなことになるかを知らんと欲し た。吾人の驚異せることは、実験の結果は著しく同一なることを示した。実 際上、実験の示す所では、胆汁で感作された腸と接触せる「パラチフス」死菌

現代語訳

220      感染及び免疫における媒染剤の意義 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ないだろうか? 我々が経口免疫について行った研究を調査する前に、最初の時にこの考えの範囲内にあった既に古くなった実験を簡単に述べよう;これは15年以上をさかのぼる。これは最初の経口チフス予防接種であった;これはメチニコフ及び我々自身によって類人猿に実施されたのである。 種々のチフス予防ワクチンの価値を試験する目的で、類人猿について研究した際、我々は猩々に生きた毒力の強いチフス菌を摂取させた。この動物は既に前に経口的に加熱チフス菌を受けたのである。しかし我々は――これは1910年であった――正常動物と考えた、それは加熱菌を摂取した事実は免疫の痕跡に過ぎないと考えられることはほんの瞬間も承認することができなかったからである。我々の猩々はそれ故――我々の考えでは――恰も完全に新しいもののように、腸チフスに罹患すべきであった。しかるにこれは何の障害も起こすことなく済んだ。 局所免疫の考えは当時は我々の期待に影響を及ぼすことができなかったので、この結果は全く我々を困惑させた。事実は少なからず明白であった。他の猩々を手に入れることが可能であったので、我々に残されたことは事実を記載するだけであった。たとえ経口による実験的予防接種の最初の例を観察することがこのようにメチニコフ及び我々に残されていたとしても、これは全く意外であってそれについて我々の例に何らの価値もなかったのである。 翌年(1911年)、経口予防接種の同様な実験が、J.クールモン及びロシェによって、3年遅れて(1914年)A.リュミエール及びシェヴロティエによって、実験室動物について繰り返された。その頃、同種の試験がドイツにおいて一連の学者達――レフラー、クッチャー及びマイニッケ、ウォルフ、ブルックナーによってパラチフス菌の培養をもって追求された。あらゆる実験が嚥下したこれらの菌に対し特に感受性の大きい動物であるマウスに実施された。            *  *  * これらの研究を総合すると、一定の研究条件においては経口予防接種は実現可能であることを知るに至った。これらの条件を正確に決定すること並びに動物に          感染及び免疫における媒染剤の意義    221 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― おいて免疫経過中に起こることをさらに厳重に検査することは保留する。普通一般の考えがあるので、特に血清の抗体含有量を追求しなければならない。体躯矮小なマウスはこの種の研究には不適当であるので、我々は家兎を使用することにした。 第一歩において、我々は大きな困難に遭遇した。我々はマウス及び猩々とは異なり、家兎は経口的にはチフス又はパラチフス感染に対し予防接種されないことを認めた。我々は無益に家兎に加熱菌のみならず、さらに生きた毒力強い菌を嚥下させたが、家兎は免疫性の獲得を拒否した。嚥下された菌は少しも停滞することなく速やかに腸を通過する、恰も雑菌に対する場合のようである。 パラチフス感染における腸壁の意義については我々の以前の実験にはない所であり;他面においては、胆汁の付加をなしうる方法を知っているので、我々は遂に胆汁を免疫に使用しようとの考えに到達した。我々はそこでまず腸の上皮を磨き、かくして腸壁の透過性を変化し、次いで、経口的に生パラチフス菌を投与しようことを提唱した。 明らかに、胆汁で処置された腸は嚥下した菌を吸着することができることを示した、従ってかく処置された家兎は強制的に血液内に入れた菌の致死量に抵抗することができるようになる。 この結果は多数の要項に対して得るところが極めて多かった。まず、胆汁を予め嚥下することは免疫形成に極めて必要なこと;次に、この免疫が経口的に得られたと同一な機序は我々に新天地を示した。 この実験の実際的価値に関しては、もちろん零であった。その興味は純学理的であった、何人も生菌の服用を予防接種の手段として推奨する考えを抱いていなかった。 しかしこの実験より励まされて、我々は、他の条件は全部同一にし、生菌に代わって死菌をもってする場合に、何のようなことになるかを知ろうと欲した。我々の驚いたことは、実験の結果は著しく同一であることを示した。実際上、実験の示すところでは、胆汁で感作された腸と接触したパラチフス死菌

英語訳

220      Role of Mordants in Infection and Immunity ―――――――――――――――――――――――――――――――――― wouldn't it? Before examining the research we conducted on oral immunization, let us briefly describe the already outdated experiments that were within the scope of this idea at the beginning; this goes back more than 15 years. This was the first oral typhoid vaccination; this was performed on anthropoid apes by Metchnikoff and ourselves. When studying anthropoid apes with the purpose of testing the value of various typhoid preventive vaccines, we made orangutans ingest living virulent typhoid bacilli. This animal had already previously received heated typhoid bacilli orally. However, we considered it—this was in 1910—a normal animal, because we could not for even a moment admit that the fact of ingesting heated bacteria could be considered as merely a trace of immunity. Our orangutan should therefore—in our thinking—have contracted intestinal typhoid as if it were completely naive. However, this proceeded without causing any disturbance. Since the concept of local immunity could not influence our expectations at that time, this result completely perplexed us. The facts were quite clear. Since it was possible to obtain other orangutans, all that remained for us was to record the facts. Even if observing the first example of experimental vaccination by oral route was thus left to Metchnikoff and us, this was completely unexpected and our case had no value regarding it. The following year (1911), similar experiments in oral vaccination were repeated on laboratory animals by J. Courmont and Rochaix, and three years later (1914) by A. Lumière and Chevrotier. At that time, similar tests were pursued in Germany by a series of scholars—Loeffler, Kutscher and Meinicke, Wolf, Bruckner—using cultures of paratyphoid bacilli. All experiments were performed on mice, animals particularly sensitive to these ingested bacteria.            *  *  * Synthesizing these studies, we came to know that under certain research conditions, oral vaccination was feasible. Determining these conditions precisely and examining more rigorously what occurs during the immune process in animals is reserved. Due to prevailing general ideas, we must particularly pursue the antibody content of serum. Since mice with their small stature are unsuitable for this type of research, we decided to use rabbits. At the first step, we encountered great difficulties. We found that unlike mice and orangutans, rabbits are not vaccinated orally against typhoid or paratyphoid infection. We made rabbits swallow not only heated bacteria but also living virulent bacteria in vain, but the rabbits refused to acquire immunity. The swallowed bacteria pass rapidly through the intestine without any retention, just as in the case of extraneous bacteria. Regarding the significance of the intestinal wall in paratyphoid infection, this was absent from our previous experiments; on the other hand, knowing methods by which bile addition can be made, we finally arrived at the idea of using bile for immunization. We therefore proposed to first polish the intestinal epithelium, thus changing the permeability of the intestinal wall, then administer living paratyphoid bacilli orally. Clearly, the intestine treated with bile showed it could adsorb the swallowed bacteria, and thus rabbits so treated became able to resist lethal doses of bacteria forcibly introduced into the blood. This result was extremely rewarding for numerous points. First, prior swallowing of bile is extremely necessary for immune formation; second, the same mechanism by which this immunity was obtained orally showed us new horizons. Regarding the practical value of this experiment, it was of course zero. Its interest was purely theoretical, no one harbored the idea of recommending the ingestion of living bacteria as a means of vaccination. However, encouraged by this experiment, we wanted to know what would happen if, keeping all other conditions identical, we used dead bacteria instead of living ones. To our surprise, the experimental results showed remarkable similarity. Actually, the experiment showed that paratyphoid dead bacteria in contact with intestines sensitized with bile          Role of Mordants in Infection and Immunity    221 ――――――――――――――――――――――――――――――――――