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コレクション: Code4Lib JP

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - 翻刻

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - ページ 69

ページ: 69

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112           腸チフス予防接種実験的根拠 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― に、同時に同じ条件で感染せしめたる対照は定型的の「チフス」に罹患した。  この事実は「チフス予防接種は可能なることを結論せしむるものである。  勿論毒力強き「チフス」生菌より成る「ワクチン」は、不便を呈することな しとは云はれない。吾人が前に云へる如く、我が「シムパンゼー」は生菌の皮 下注射に続き、烈しき局所反応を呈し、引き続き衰弱状態を呈した。人間は「シ ムパンゼー」より更にニエーベルト氏菌に対し感受性が大なるが故に、同様な る接種方法によれば非常に重篤なる症状を起すべきを怖れるのである。  この偶発事件を避くるために、Metchnikoff と我々同人とは感作「ワクチン」 を使用したのである。吾人は8日間の間隔を置き2回注射をなした後、「シ ムパンゼー」では更に強固なる「チフス予防免疫の発現するを見た。かく予防 接種をした後に、培養又は有毒なる糞便材料の形で「チフス」菌を多量に嚥下 せしめたのに、対照又は他の「ワクチン」で処置されたものは「チフス」に罹患 した。  感作生菌「ワクチン」の効果は多くの顕著なる実験に於て五頭の「シムパン ゼー」にて確めることが出来たので、吾人は人間に於ける試験を行つて差し 支へないものと信じたのである。            *  *  *  誰でも、今日では; 死菌又は菌浸出液より成る「ワクチン」より生菌「ワク チン」の優れることに異議を申し立てるものはない。人間並びに動物に於け る、予防接種の長い実施は、充分に之を証明した。吾人は種痘、狂犬病又は 炭疽病の歴史を想起するまでもない。然し「チフス」の場合には、そを極めて 危険なりとなすに躊躇しない。近来でもなほ極めて有力なる学者等がこの 「ワクチン」に対し極めて烈しき誹謗を投げはしなかつたであらうか?。人は また吾人の「ワクチン」を接種されたものは慢性保菌者たらしむ、即「チフス」 流行の尽きざる源となすと云はなかつたか?。人は之を殺人「ワクチン」とま で難癖つけるに至つた。かかる品質形容詞までが使用された。  かくの如き評価は吾人の方法を施して見んと欲する人達を意気阻喪せしむ ることはなかつた。吾人は然しながら注射並び我が共同研究者と共に男女子           腸チフス予防接種実験的根拠         113 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 共10,000人に至るまで接種することに成功した。今日まで良心に誓つて一人 の死亡せるものなく、のみならず吾人の知れる所では唯一人の「チフス」菌 保 有者もなかつた。  吾人は我々自身及び我々の周囲の人々を予防注射した後、六か月以上幾度 も繰り返へして、糞便や尿を検査した。吾人は吾人の被接種者の家のものの 糞便、尿、血液を検査し又検査せしめた。吾人は一度も「チフス」菌の最小痕 跡をも見出したことはなかつた。  吾人は自分自身の経験から付加出来ることは、被接種者が、予防接種をせ る当日も、其翌日も以後も、仕事の従事をやめたるものなきことである。  以前より、何故と云ふことは分らぬが、被接種者に於て発赤及び触はる際 に疼痛感を表はす如き、局所の反応を認めてゐる。稀な場合に例外として 39°に体温の上昇することがある。然し確むることの出来るのは同一分量で は生菌感作「ワクチン」は、局所に於ても全身に於ても、死菌を以て製せる 「ワクチン」より遥に温和なる反応を呈することである。  吾人の「ワクチン」に対しも一つの非難はかうである。他日不幸にして 「チフス」の潜伏期の間の人を接種する様なことがあれば、「ワクチン」中に含 まるる「チフス」菌が既に生体中を順環する菌に加はるを以て、著しく「チフ ス」症状を重篤にすることが必ずあり得ると云ふのである。  この非難は事実によつて証明されたものではない。Ardin-Delteil,Nègre et Raynaud がアルジエリーに於ける臨床的観察、Boinet がマルセイユに 於ける、Netter が巴里に於ける、及び他の人々の観察は、「チフス」菌の感作 生菌は、之を「チフス」経過中に注入する時は、寧ろ疾病に良好を呈す; 即 ち病日を短縮し、再発の数を著しく減じ、死亡率を強度に低下する。故に疾 病の経過中に良好に作用する Vaccin は潜伏期間に於て有害なることは恐ら くあり得ないことである。  「シムパンゼー」に於ける吾人の実験の綜合及び人間に於ける観察に基き、 感作「チフス」生菌は皮下に注射するに全く無害にして、人間に於ては、異議 なき予防接種用性質を賦与せられたるものなることを肯定することが出来る

現代語訳

112           腸チフス予防接種の実験的根拠 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― に、同時に同じ条件で感染させられた対照は典型的なチフスに罹患した。 この事実はチフス予防接種は可能であることを結論させるものである。 もちろん毒力の強いチフス生菌よりなるワクチンは、不便を呈することなしとは言われない。われわれが前に言ったように、われわれのチンパンジーは生菌の皮下注射に続き、激しい局所反応を呈し、引き続き衰弱状態を呈した。人間はチンパンジーよりさらにエーベルト氏菌に対し感受性が大であるため、同様な接種方法によれば非常に重篤な症状を起こすべきことを恐れるのである。 この偶発事件を避けるために、メチニコフとわれわれ同僚とは感作ワクチンを使用したのである。われわれは8日間の間隔をおき2回注射を行った後、チンパンジーではさらに強固なチフス予防免疫の発現するのを見た。このように予防接種をした後に、培養または有毒な糞便材料の形でチフス菌を多量に嚥下させたのに、対照または他のワクチンで処置されたものはチフスに罹患した。 感作生菌ワクチンの効果は多くの顕著な実験において五頭のチンパンジーにて確めることができたので、われわれは人間における試験を行って差し支えないものと信じたのである。            *  *  * 誰でも、今日では、死菌または菌浸出液よりなるワクチンより生菌ワクチンの優れることに異議を申し立てるものはない。人間ならびに動物における予防接種の長い実施は、十分にこれを証明した。われわれは種痘、狂犬病または炭疽病の歴史を想起するまでもない。しかしチフスの場合には、それを極めて危険なりとなすに躊躇しない。近来でもなお極めて有力な学者等がこのワクチンに対し極めて激しい誹謗を投げはしなかっただろうか?人はまたわれわれのワクチンを接種されたものは慢性保菌者たらしむ、すなわちチフス流行の尽きざる源となすと言わなかったか?人はこれを殺人ワクチンとまで難癖つけるに至った。このような品質形容詞までが使用された。 このような評価はわれわれの方法を施してみようと欲する人たちを意気阻喪させることはなかった。われわれはしかしながら注射並びにわが共同研究者と共に男女子           腸チフス予防接種の実験的根拠         113 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 共10,000人に至るまで接種することに成功した。今日まで良心に誓って一人の死亡したものなく、のみならずわれわれの知るところでは唯一人のチフス菌保有者もなかった。 われわれはわれわれ自身およびわれわれの周囲の人々を予防注射した後、六か月以上幾度も繰り返して、糞便や尿を検査した。われわれはわれわれの被接種者の家のものの糞便、尿、血液を検査し又検査させた。われわれは一度もチフス菌の最小痕跡をも見出したことはなかった。 われわれは自分自身の経験から付加できることは、被接種者が、予防接種をした当日も、その翌日も以後も、仕事の従事をやめたものなきことである。 以前より、何故ということは分からぬが、被接種者において発赤および触れる際に疼痛感を表すような、局所の反応を認めている。稀な場合に例外として39°に体温の上昇することがある。しかし確めることのできるのは同一分量では生菌感作ワクチンは、局所においても全身においても、死菌をもって製したワクチンより遥かに温和な反応を呈することである。 われわれのワクチンに対しても一つの非難はこうである。他日不幸にしてチフスの潜伏期の間の人を接種するようなことがあれば、ワクチン中に含まれるチフス菌が既に生体中を循環する菌に加わるをもって、著しくチフス症状を重篤にすることが必ずあり得るというのである。 この非難は事実によって証明されたものではない。Ardin-Delteil, Nègre et Raynaudがアルジェリアにおける臨床的観察、Boinetがマルセイユにおける、Netterが巴里における、および他の人々の観察は、チフス菌の感作生菌は、これをチフス経過中に注入する時は、むしろ疾病に良好を呈す;すなわち病日を短縮し、再発の数を著しく減じ、死亡率を強度に低下する。ゆえに疾病の経過中に良好に作用するワクチンは潜伏期間において有害なることはおそらくあり得ないことである。 チンパンジーにおけるわれわれの実験の総合および人間における観察に基き、感作チフス生菌は皮下に注射するに全く無害にして、人間においては、異議なき予防接種用性質を賦与されたるものなることを肯定することができる

英語訳

112           Experimental Basis of Typhoid Vaccination ―――――――――――――――――――――――――――――――――― while the control infected under the same conditions at the same time contracted typical typhoid. This fact leads us to conclude that typhoid vaccination is possible. Of course, vaccines composed of highly virulent live typhoid bacteria cannot be said to present no inconvenience. As we mentioned previously, our chimpanzee showed severe local reactions following subcutaneous injection of live bacteria, followed by a state of debilitation. Since humans have even greater susceptibility to Eberth's bacilli than chimpanzees, we fear that the same inoculation method would cause very severe symptoms. To avoid this complication, Metchnikoff and our colleagues used sensitized vaccine. After we performed two injections with an 8-day interval, we observed the development of even stronger typhoid preventive immunity in chimpanzees. After such preventive inoculation, when large quantities of typhoid bacteria were swallowed in the form of culture or toxic fecal material, controls or those treated with other vaccines contracted typhoid. Since the effectiveness of sensitized live bacterial vaccine could be confirmed in five chimpanzees through many notable experiments, we believed it was acceptable to conduct trials in humans.            *  *  * Today, no one disputes that live bacterial vaccines are superior to vaccines composed of killed bacteria or bacterial extracts. The long implementation of vaccination in humans and animals has amply proven this. We need not recall the history of smallpox vaccination, rabies, or anthrax. However, in the case of typhoid, there is no hesitation in considering it extremely dangerous. Even recently, have not very influential scholars cast extremely harsh criticism against this vaccine? Have people not also said that those inoculated with our vaccine become chronic carriers, that is, an inexhaustible source of typhoid epidemics? People have gone so far as to brand it a murderous vaccine. Such qualitative adjectives have been used. Such evaluations did not discourage those who wished to try our method. We have, however, succeeded in inoculating up to 10,000 men and women together with injections and our co-researchers.           Experimental Basis of Typhoid Vaccination         113 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― Up to today, we can swear in good conscience that not one person has died, and moreover, to our knowledge, there has not been a single typhoid carrier. After vaccinating ourselves and those around us, we examined feces and urine repeatedly for more than six months. We examined and had examined the feces, urine, and blood of the families of our vaccinees. We have never found even the slightest trace of typhoid bacteria. What we can add from our own experience is that none of the vaccinees stopped working on the day of vaccination, the next day, or thereafter. We have previously observed local reactions in vaccinees, such as redness and pain when touched, though we do not understand why. In rare cases, as an exception, body temperature may rise to 39°. However, what can be confirmed is that with the same dosage, sensitized live bacterial vaccine shows much milder reactions both locally and systemically than vaccines made with killed bacteria. One criticism of our vaccine is as follows: if unfortunately someone in the incubation period of typhoid should be inoculated, the typhoid bacteria contained in the vaccine would add to the bacteria already circulating in the body, inevitably making typhoid symptoms significantly more severe. This criticism has not been proven by facts. Clinical observations by Ardin-Delteil, Nègre et Raynaud in Algeria, by Boinet in Marseilles, by Netter in Paris, and by others show that sensitized live typhoid bacteria, when injected during the course of typhoid, rather show benefit to the disease; that is, shortening the disease duration, significantly reducing the number of relapses, and greatly lowering mortality. Therefore, a vaccine that acts beneficially during the course of disease cannot possibly be harmful during the incubation period. Based on the synthesis of our experiments in chimpanzees and observations in humans, we can affirm that sensitized live typhoid bacteria are completely harmless when injected subcutaneously and are endowed with indisputable preventive vaccination properties in humans.