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コレクション: Code4Lib JP

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - 翻刻

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - ページ 73

ページ: 73

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120           「コレラ」予防接種 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 予防接種は生体の中毒に対しては防御するものでない。故に組織内送入の 「コレラ」弧菌に対し充分に予防接種をせられたる動物が腸内容中に造られた る毒素による中毒に抵抗し得ないことは先ず以て容易に信じられる。』            *  *  *  幼弱家兎に行へる今日では「クラシツク」となれる之等の実験により、「コ レラ」の予防「ワクチン」の理由は、全く無意義のものとならないまでも、著 しく危くなつた様である。  然しこれがために、血球の点より、或は他の点より、人体に対する新試験 を妨げることはなかつた。到る所に始めは戦々競々として次いで次第次第に 肯定的に予防接種に賛成する声の上るのを聞いたのである。  彼らの圧迫の下に、Metchnikoff は、疑を抱き、1910年に、既に十四年 間幼弱家兎に就て観察せる彼の実験を再び為すべく決心した。氏はChouke- vitch にその実施をなすことを委嘱した。  Metchnikoff が1896年に確定せる如く、幼弱家兎は生後20日間は、病毒の 嚥下により「コレラ」に罹患し易いものである。  Choukevitch は免疫操作が始めの20日以内に終了する様にその実験を準備 した。次いでその家兎を経口的方法による試験に供し、接種の効果を観察す るために更に数日間を置いた。  家兎処生兒は二回に皮下注射を施行された;即ち第一回注射は生後2,3日 で行ひ;第二回注射は4日乃至6日遅れて行はれた。  次いで動物に7日間の休息を与へ;次ぎに試験に供した。予防接種された 家兎並びに同一腹、対照家兎は生後15日目頃に経口的に同量の生弧菌を受け た。  実験には合計31頭の家兎を供し、19は処置動物、12は対照とした。  接種動物19頭中、14頭が試験後に斃れた。即ち73%である。  対照動物12頭中、6頭が試験後に斃れた。即ち50%である。  故に、Metchnikoff が1896年に皮下注射は真の「コレラ」に対して無力な ることを肯定せるは正当であつた。即ちこの事柄はかくの如く家兎処生兒に           「コレラ」予防接種         121 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 施せるこの新実験より引用さるる唯一の結論であつた。  若し何人かが、実験に供せる動物は予防接種を受くべく余りに幼弱である と云つて反対せんと欲するならば、Metchnikoff は別に断乎たる返答を持つ てゐる: 即ち問題になれると同年齢の家兎処生兒にして加熱弧菌の皮下注 射二回を受けたるものは、試験を per os に行ふ代りに腹腔内に行ふ時は万 事に充分に予防されてゐることを示すのである。  この新実験により、皮下接種法による「コレラ」予防接種は実際上人間に関 係ある唯一の型なる腸「コレラ」に於ては更に無効なることが宣言された。           *  *  *  「コレラ」予防「ワクチン」に対する実験室の研究は少からず追究された。尚 1902年に、感作「ワクチン」による予防接種の理論が書かれた時、これに用ひ られた最初の菌の一つは「コレラ弧菌であつた。それ以来、多数の病原菌が 感作され或は医学に又は獣医学に広く実用に供された。唯々感作コレラ弧菌 のみが、吾人が説明せる理由に基き、実験室の入り口を飛び越えなかつたので ある。然し乍ら動物に於ける研究では感作コレラ予防ワクチン」は局所及び 全身反応が極めて少きか又は全々なくして免疫を獲得することを示した。而 もこの免疫は所謂陰性期の前駆することなく、鞏固にして極めて速に生ずる 長所を有することを示した。  一般に支配する意見は人間に於ける「コレラ予防ワクチン」使用の次第に不 利となれるを以て、之れ以上に渡ることなく是等の事実を記載するを以て満 足としたのである。(1)           *  *  *  かかる状態で16年間停滞した。その結果、吾人は感作弧状菌に関する新研 究を再び見出すために1902年より1918年まで一足飛びに過ぎければならな かつた。是等の研究は日本の細菌学者三氏:K, Shiga, R, Takano et S, Ya- be により慎重になされた。氏等の実験の詳細に就てはここに記載すること ―――――――――――――――――――――――  (1) 感作コレラ弧菌による予防接種は現今に於ては殆ど日本で使用されてゐる   だけである。

現代語訳

120           コレラ予防接種 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 予防接種は生体の中毒に対しては防御するものではない。したがって組織内に送入されたコレラ菌に対し十分に予防接種された動物が腸内容中に作られた毒素による中毒に抵抗できないことは、まず以て容易に信じられる。』            *  *  * 幼若ウサギに行った今日では「クラシック」となったこれらの実験により、コレラの予防ワクチンの根拠は、全く無意義のものとならないまでも、著しく危険になったようである。 しかしこのために、血球の点から、あるいは他の点から、人体に対する新試験を妨げることはなかった。至る所に初めは戦々恐々として次いで次第に肯定的に予防接種に賛成する声の上がるのを聞いたのである。 彼らの圧迫の下に、Metchnikoffは疑いを抱き、1910年に、既に十四年間幼若ウサギについて観察した彼の実験を再び行うべく決心した。氏はChoukevitchにその実施を委嘱した。 Metchnikoffが1896年に確定したように、幼若ウサギは生後20日間は、病原体の嚥下によりコレラに罹患しやすいものである。 Choukevitchは免疫操作が初めの20日以内に終了するようにその実験を準備した。次いでそのウサギを経口的方法による試験に供し、接種の効果を観察するためにさらに数日間を置いた。 ウサギ新生児は二回皮下注射を施行された。すなわち第一回注射は生後2、3日で行い、第二回注射は4日ないし6日遅れて行われた。 次いで動物に7日間の休息を与え、次に試験に供した。予防接種されたウサギならびに同一腹の対照ウサギは生後15日目頃に経口的に同量の生きた弧菌を受けた。 実験には合計31頭のウサギを供し、19頭は処置動物、12頭は対照とした。 接種動物19頭中、14頭が試験後に死亡した。すなわち73%である。 対照動物12頭中、6頭が試験後に死亡した。すなわち50%である。 したがって、Metchnikoffが1896年に皮下注射は真のコレラに対して無力であることを肯定したのは正当であった。すなわちこの事柄はこのようにウサギ新生児に           コレラ予防接種         121 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 施したこの新実験から導かれる唯一の結論であった。 もし何人かが、実験に供した動物は予防接種を受けるべく余りに幼弱であると言って反対しようと欲するならば、Metchnikoffは別に断固たる返答を持っている。すなわち問題になったと同年齢のウサギ新生児にして加熱弧菌の皮下注射二回を受けたものは、試験を経口で行う代りに腹腔内に行う時は万事に十分に予防されていることを示すのである。 この新実験により、皮下接種法によるコレラ予防接種は実際上人間に関係ある唯一の型である腸コレラにおいては無効であることが宣言された。           *  *  * コレラ予防ワクチンに対する実験室の研究は少なからず追究された。なお1902年に、感作ワクチンによる予防接種の理論が書かれた時、これに用いられた最初の菌の一つはコレラ弧菌であった。それ以来、多数の病原菌が感作され医学にまたは獣医学に広く実用に供された。ただ感作コレラ弧菌のみが、われわれが説明した理由に基づき、実験室の入り口を飛び越えなかったのである。しかしながら動物における研究では感作コレラ予防ワクチンは局所および全身反応が極めて少ないかまたは全くなくして免疫を獲得することを示した。しかもこの免疫はいわゆる陰性期の前駆することなく、強固にして極めて速やかに生じる長所を有することを示した。 一般に支配する意見は人間におけるコレラ予防ワクチン使用の次第に不利となったので、これ以上に渡ることなくこれらの事実を記載することで満足としたのである。(1)           *  *  * かかる状態で16年間停滞した。その結果、われわれは感作弧状菌に関する新研究を再び見出すために1902年より1918年まで一足飛びに過ぎなければならなかった。これらの研究は日本の細菌学者三氏:K. Shiga, R. Takano, S. Yabeにより慎重になされた。氏らの実験の詳細についてはここに記載することは ―――――――――――――――――――――――  (1) 感作コレラ弧菌による予防接種は現今においてはほとんど日本で使用されているだけである。

英語訳

120           Cholera Vaccination ―――――――――――――――――――――――――――――――――― vaccination does not protect against intoxication in living organisms. Therefore, it is readily believable that animals sufficiently vaccinated against cholera bacilli introduced into tissues cannot resist intoxication by toxins produced in intestinal contents.'            *  *  * Through these experiments on young rabbits, which have now become "classic," the rationale for cholera preventive vaccines appears to have become, if not entirely meaningless, significantly precarious. However, this did not prevent new trials on humans from the standpoint of blood cells or other aspects. Everywhere we heard voices rising in favor of vaccination, initially with fear and trembling, then gradually and positively. Under their pressure, Metchnikoff became doubtful and in 1910 decided to repeat his experiments that he had been observing on young rabbits for fourteen years. He entrusted Choukevitch with their implementation. As Metchnikoff established in 1896, young rabbits are susceptible to cholera through swallowing pathogens for the first 20 days after birth. Choukevitch prepared his experiments so that immune manipulation would be completed within the first 20 days. He then subjected the rabbits to tests by oral method and allowed several more days to observe the effects of inoculation. Newborn rabbits received subcutaneous injections twice: the first injection was performed 2-3 days after birth; the second injection was performed 4-6 days later. The animals were then given 7 days of rest, then subjected to testing. Vaccinated rabbits as well as control rabbits from the same litter received the same amount of live vibrios orally around the 15th day after birth. A total of 31 rabbits were used in the experiment, with 19 as treated animals and 12 as controls. Of the 19 inoculated animals, 14 died after testing, i.e., 73%. Of the 12 control animals, 6 died after testing, i.e., 50%. Therefore, Metchnikoff was justified in affirming in 1896 that subcutaneous injection was powerless against true cholera. This matter was the only conclusion drawn from this new experiment conducted on newborn rabbits.           Cholera Vaccination         121 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― If anyone wishes to object that the animals used in the experiment were too young to receive vaccination, Metchnikoff has another decisive answer: newborn rabbits of the same age in question that received two subcutaneous injections of heated vibrios show complete protection when testing is performed intraperitoneally instead of per os. Through this new experiment, it was declared that cholera vaccination by subcutaneous inoculation is ineffective in intestinal cholera, which is practically the only type relevant to humans.           *  *  * Laboratory research on cholera preventive vaccines was pursued considerably. Furthermore, in 1902, when the theory of vaccination with sensitized vaccines was written, one of the first bacteria used was the cholera vibrio. Since then, numerous pathogens have been sensitized and widely put to practical use in medicine or veterinary medicine. Only sensitized cholera vibrios, based on the reasons we explained, did not leap over the laboratory entrance. However, research in animals showed that sensitized cholera preventive vaccine acquired immunity with extremely few or no local and systemic reactions. Moreover, this immunity was shown to have the advantage of being solid and arising extremely rapidly without being preceded by the so-called negative phase. Since the generally prevailing opinion became increasingly unfavorable to the use of cholera preventive vaccine in humans, we were satisfied with recording these facts without going further. (1)           *  *  * This state stagnated for 16 years. As a result, we must jump from 1902 to 1918 to find new research on sensitized curved bacteria again. These studies were carefully conducted by three Japanese bacteriologists: K. Shiga, R. Takano, and S. Yabe. Regarding the details of their experiments, recording them here ―――――――――――――――――――――――  (1) Vaccination with sensitized cholera vibrios is now used almost exclusively in Japan.