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コレクション: Code4Lib JP

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - 翻刻

伝染病ニ於ケル免疫ニ関スル研究 - ページ 76

ページ: 76

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126           「コレラ」予防接種 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 実験以上に或る点では、価値がある。即ち実験に供せる材料の質に於て、又 その数に於て二、三の例を挙げて之を判断し得るであらう。  4,500人を包含する或る聯隊は流行より痛く悩まされた: 即ち10日間のう ちに、「コレラ」患者386人が登録され、そのうち166人が死亡した。  そこで予防接種を開始した。第一回及び第二回注射の間に於て、新患が発 生してゐる。衛生状態は依然同一であつた。第二回注射を行つた。二日後に、 流行は急劇にやんだ。次いで一例も新患の申告はなかつた。(観察のII)  他の隊に於ては、流行の初期に於て、患者280人を算し死者120人を出し た。「ワクチン」の第一回注射は少しも良好に導くことがなかつた:即ち毎日 新患約13人を登録した。6日頃、全部急劇に停止した;只隊中唯々一人予防 接種を拒絶せる中隊長を除き、一名の患者も出なかつた。(観察のIII)  180人を有する兵営に於いて、予防の目的を以て、予防接種をなした。唯々 四人の伝令将校が予防接種を受けなかつた。しばらくして、「コレラ」患者三 人が兵営で申告された;之は予防注射を受けなかつたものの四人のうちの三 人であつた。その他すべてのものものは罹患しなかつた。(観察のV)  ある聯隊では、聯隊長がその部下の予防接種をなすことを反対した。イス ラエル出身の軍隊、人員200、は予防注射を強要したので、その通りこれに 従つた。次いで、この聯隊は450人の「コレラ」患者を出した。予防注射せ るイスラエルの兵士は一名も罹患しなかつた(観察のVI)。  「チフス」に罹患せる軍人に充当せる病院内に、露西亜人及びルーマニア人 がゐた。ルーマニア人のみは「コレラ」の予防接種を受けた。特に烈しき「コ レラ」の流行が発生した;死亡率は40%に及んだ。只露西亜の軍人のみが罹 患した。一名もルーマニアの軍人には発生しなかそ【つ】た、唯々予防注射を巧み に逃れた軍曹だけが例外であつた(観察のIX)、  吾人が要約せる上記数例の観察は実験室内にてなし得たものより更に美は しき実験を以て敵対せんとする状況にある。           *  *  * 「コレラ」予防接種は常に無害であるか?           「コレラ」予防接種         127 ――――――――――――――――――――――――――――――――――  この質問をなしたのは、細菌の毎回の注射に続発する局所又は全身の反応 を目的とするのではない。この反応は、たとへ非難があつても、「コレラ」に 罹患する脅威の前には計算に入らぬであらう。大切なることは大流行に際し 予防接種を実行するに際し危険があるか何うかを知ることである。  流行病学者を信用せしめることは、最初の「ワクチン」注射に次ぐ2―3日間 に流行の再発を起すことが稀ではない、その際に同時に患者数の増加するこ と並びに既に予防接種された人々の症状が増悪することが起る。  吾人は此の種の多数の事実を Cantacuzène の同じ報告中に見るのである。  外観上健康に見ゆる二人の婦人が「コレラ」予防接種を受けた。注射後6- 10時間で、二名の婦人は烈しい「コレラ」の感染を受けた。  他の例は、ある聯隊に於て数日間の間隔に於て、270人の「コレラ」患者と 28人の死者を記載してゐる。速に全人員に予防注射を施した。「コレラ」予防 接種の第一回注射後3日以内に、罹患率及び死亡率に著しき増加を来した。  此の聯隊の提案に基き、Cantacuzène は『この増悪は種々の医師により他の 聯隊にても観察された、そしてこの事実は陰性期並に流行せる所に予防接種 をなすことの危険なることに就いての異論に注意を喚起せしめるものであ る』ことを認めた。氏は、尚ほ、大流行に際し之がために予防接種を逃れる ことがあつてはならぬ、更に「アナフイラキシイ」の偶発事故を恐れて抗「ヂ フテリア」血清の使用を抛棄するかも知れぬ様なことがあつてはならぬこと を極力付け加へてゐる。  「コレラ」の流行の極期の於ても、予防接種をなすべきことは当然である、 然しその場合に経過する増悪の危険を最小に減少することを研究するは吾人 の義務ではなからうか? 如何にして之を達するか?           *  *  *   すべて個体の抵抗を減少し又は劣性の状態の期間を延長する疑ある理由は 陰性期を強くするに有利である。  この陰性期が短ければ短い程、免疫が早く出来れば出来る程、大流行に行 はれた予防接種の災害を免るるに都合がいいのである。

現代語訳

126           コレラ予防接種 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 実験は動物における実験以上に、ある点では価値がある。すなわち実験に供する材料の質において、またその数において二、三の例を挙げてこれを判断し得るであろう。 4,500人を含むある連隊は流行よりひどく悩まされた:すなわち10日間のうちに、コレラ患者386人が登録され、そのうち166人が死亡した。 そこで予防接種を開始した。第一回および第二回注射の間において、新患が発生している。衛生状態は依然同一であった。第二回注射を行った。二日後に、流行は急激に止んだ。次いで一例も新患の申告はなかった。(観察のII) 他の部隊においては、流行の初期において、患者280人を数し死者120人を出した。ワクチンの第一回注射は少しも良好に導くことがなかった:すなわち毎日新患約13人を登録した。6日頃、全部急激に停止した;ただ部隊中ただ一人予防接種を拒絶した中隊長を除き、一名の患者も出なかった。(観察のIII) 180人を有する兵営において、予防の目的をもって、予防接種をなした。ただ四人の伝令将校が予防接種を受けなかった。しばらくして、コレラ患者三人が兵営で申告された;これは予防注射を受けなかった者の四人のうちの三人であった。その他すべての者は罹患しなかった。(観察のV) ある連隊では、連隊長がその部下の予防接種をなすことを反対した。ユダヤ系出身の軍隊、人員200、は予防注射を強要したので、そのとおりこれに従った。次いで、この連隊は450人のコレラ患者を出した。予防注射をしたユダヤ系の兵士は一名も罹患しなかった(観察のVI)。 チフスに罹患した軍人に充当した病院内に、ロシア人およびルーマニア人がいた。ルーマニア人のみはコレラの予防接種を受けた。特に激しいコレラの流行が発生した;死亡率は40%に及んだ。ただロシアの軍人のみが罹患した。一名もルーマニアの軍人には発生しなかった、ただ予防注射を巧みに逃れた軍曹だけが例外であった(観察のIX)。 われわれが要約した上記数例の観察は実験室内にてなし得たものよりもさらに美しい実験をもって対抗しようとする状況にある。           *  *  * コレラ予防接種は常に無害であるか?           コレラ予防接種         127 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― この質問をなしたのは、細菌の毎回の注射に続発する局所または全身の反応を目的とするのではない。この反応は、たとえ非難があっても、コレラに罹患する脅威の前には計算に入らないであろう。大切なことは大流行に際し予防接種を実行するに際し危険があるかどうかを知ることである。 流行病学者を信用させることは、最初のワクチン注射に次ぐ2-3日間に流行の再発を起すことが稀ではない、その際に同時に患者数の増加することならびに既に予防接種された人々の症状が増悪することが起る。 われわれはこの種の多数の事実をCantacuzèneの同じ報告中に見るのである。 外観上健康に見える二人の婦人がコレラ予防接種を受けた。注射後6-10時間で、二名の婦人は激しいコレラの感染を受けた。 他の例は、ある連隊において数日間の間隔において、270人のコレラ患者と28人の死者を記載している。速やかに全人員に予防注射を施した。コレラ予防接種の第一回注射後3日以内に、罹患率および死亡率に著しい増加を来した。 この連隊の提案に基づき、Cantacuzèneは「この増悪は種々の医師により他の連隊にても観察された、そしてこの事実は陰性期ならびに流行している所に予防接種をなすことの危険なることについての異論に注意を喚起させるものである」ことを認めた。氏は、なおも、大流行に際しこれがために予防接種を逃れることがあってはならない、さらに「アナフィラキシー」の偶発事故を恐れて抗ジフテリア血清の使用を放棄するかも知れないようなことがあってはならないことを極力付け加えている。 コレラの流行の極期においても、予防接種をなすべきことは当然である、しかしその場合に経過する増悪の危険を最小に減少することを研究するのはわれわれの義務ではなかろうか?いかにしてこれを達するか?           *  *  * すべて個体の抵抗を減少しまたは劣性の状態の期間を延長する疑いある理由は陰性期を強くするのに有利である。 この陰性期が短ければ短いほど、免疫が早くできればできるほど、大流行に行われた予防接種の災害を免れるのに都合がいいのである。

英語訳

126           Cholera Vaccination ―――――――――――――――――――――――――――――――――― The experiments are, in some respects, more valuable than animal experiments. This can be judged by citing two or three examples regarding the quality and number of materials available for experimentation. A certain regiment comprising 4,500 men was severely afflicted by the epidemic: namely, within 10 days, 386 cholera patients were registered, of whom 166 died. Vaccination was then commenced. Between the first and second injections, new cases continued to occur. The sanitary conditions remained the same. The second injection was administered. Two days later, the epidemic ceased abruptly. Subsequently, no new cases were reported. (Observation II) In another unit, during the early stage of the epidemic, 280 patients were counted with 120 deaths. The first injection of vaccine led to no improvement whatsoever: namely, about 13 new patients were registered daily. Around the 6th day, everything stopped abruptly; not a single patient appeared except for one company commander who alone refused vaccination. (Observation III) In a barracks housing 180 men, vaccination was performed for preventive purposes. Only four orderly officers did not receive vaccination. After some time, three cholera patients were reported in the barracks; these were three of the four who had not received preventive injections. All others remained unaffected. (Observation V) In a certain regiment, the regimental commander opposed vaccinating his subordinates. A Jewish military unit of 200 personnel was compelled to receive preventive injections and complied accordingly. Subsequently, this regiment produced 450 cholera patients. Not a single Jewish soldier who received preventive injections fell ill (Observation VI). In a hospital assigned to soldiers suffering from typhus, there were Russians and Romanians. Only the Romanians received cholera vaccination. A particularly severe cholera epidemic broke out; the mortality rate reached 40%. Only the Russian soldiers fell ill. Not a single Romanian soldier was affected, except for one sergeant who cleverly evaded the preventive injection (Observation IX). The observations of the above several cases that we have summarized present circumstances that would compete with even more beautiful experiments than those achievable in the laboratory.           *  *  * Is cholera vaccination always harmless?           Cholera Vaccination         127 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― This question is not aimed at the local or systemic reactions following each bacterial injection. These reactions, even if criticized, would not be taken into account in the face of the threat of contracting cholera. What is important is to know whether there are dangers when implementing vaccination during a major epidemic. What epidemiologists have come to believe is that it is not uncommon for epidemic recurrence to occur in the 2-3 days following the first vaccine injection, during which time there is simultaneously an increase in the number of patients as well as an exacerbation of symptoms in people who have already been vaccinated. We see numerous facts of this kind in the same report by Cantacuzène. Two women who appeared outwardly healthy received cholera vaccination. Within 6-10 hours after injection, both women suffered severe cholera infection. Another example records 270 cholera patients and 28 deaths in a certain regiment over several days. Preventive injections were promptly administered to all personnel. Within 3 days after the first cholera vaccination injection, there was a marked increase in both morbidity and mortality rates. Based on this regiment's suggestion, Cantacuzène acknowledged that "this exacerbation was observed by various physicians in other regiments as well, and this fact draws attention to objections regarding the negative phase and the dangers of conducting vaccination in epidemic areas." He further emphasizes that vaccination should not be avoided during major epidemics for this reason, just as the use of anti-diphtheria serum should not be abandoned for fear of anaphylactic accidents. Even during the peak of a cholera epidemic, vaccination should naturally be performed, but is it not our duty to research how to minimize the risks of exacerbation that occur in such cases? How can this be achieved?           *  *  * All suspected reasons that reduce individual resistance or prolong periods of weakened state favor strengthening the negative phase. The shorter this negative phase, the sooner immunity develops, the better suited it is to avoid the disasters of vaccination performed during major epidemics.