翻刻
鳶口の先身の内へ打こまれ其疵不愈して日数
十日計過て死去の由風聞也是は流れて水に
溺れ死なんゟはましかといふ人多し実に海へ流れ
行たるは魚鼈のゑじきに成へき也笑止千万
なる事共也されは鳶口引かけ水より女人を引上
たる事前代未聞也乍去元暦年中に平家
西海の波の上に漂泊して源平戦ふといへ共平家
つひに打負平氏の一族或はうたれ或は海に沈
しかは女院も御身を投たまひし時源氏の武士
熊手にかけ取上奉りかひなき御命助け奉候と
書伝も有されは熊手にかけ上奉りし事はあれと今
度は源次の家来鳶口にて引上たり熊手はむいし
の物語是は今年九月二日の事也時節とやいふへ
き又過去の因果にても有やらん誠にいたましき
事共也
一小石川の方へ流来る死人其数知らず或は流るゝ
家の屋ねに乗なかれ橋杭にあたり家みい?【「ち」の誤記ヵ】ん
に成り人もともに流れ行多し又かや屋ね