翻刻
前代未聞の事也水は段々来る間高き所へ逃るも
有或は親類縁者の方へ取物も取敢す貴賤男女
僧俗老少逃散る事数知らすこれやこの急火に出
合焼来る火に追れ逃るに異ならす火事は衣服も
改め頭には物をかふり或は長刀又は刀脇差を女中も
帯し退行共今日の水は衣服をあらたむる間も
あらはこそ髪の上よりあたまくたしにつふ濡る濡た
る衣服ぬれなり二立の侭にて水にひたしたる如くに
濡しよほたれかちはたしにて老女小児はなき顔に
なりて逃行有さま笑止千万なる事共也され共
早く退たる衆は命に無恙道具にかまけあるひは
油断して遅く退たる衆は怪我有たると風聞也
惣して火事も水も欲を可離事肝要也
一小日向ゟ牛込辺小石川御門近辺水戸の御屋敷
廻り牛天神下の水高サ壱丈弐尺程といへり
一水戸御屋敷水の高サ表御門通り御長屋二階
の窓の上縁より四五寸も上に水の付たる跡有二階之
窓より水押込候と申咄也御屋敷東の方瓦壁