翻刻
して御部屋頭分と成家屋敷を賜ハり取立の家な
れハ武具馬具も所持すましと御蔵より賜ハり諸道
具金銀米銭数を尽して拝領し出頭類ひなし元
来邪智ものなれは表ハ謙退質素と見セて奢無
礼法に過たりされ共御寵愛の親なれハ家中
無念を捍へて通しけれは日ニ増威勢盛也寛
政三年亥夏今迄住し家鋪に別業を建
むとしけるに此家の裏山の根に狐穴あり爰を築
山に構へんと差図セしニ坪の内に狐を置ん事
見苦しかるへし明日此穴堀崩し申へしと云付け
るニ其夜夢に告たるハ我此所ニ住事数百年也
堀崩さんとハ近比迷惑也小き社にても建て給ひかし
いよ〳〵立身加増を守らんと申ける夢見て弥三
右衛門大ニ憤り扨〻憎き狐め哉穴を堀崩さんとな
らは詫言ハセすして社を建よ我立身を守らん
抔とは言語同断推参千萬我汝を頼んや其儀な
らハ目に物見せんと穴の口を塞き四方に薪を積て
焼立ける其後穴を見るに犬に一かた大き古狐焼
死居たり夫狐と云物は人の弱きに付込んて種〻
怪敷事をなすもの也我を見損しよき死様と
要口し益家造をなしにける斯て荒川玄順か
忰ハ母か与し玉をねぶり食とし夜ハ抱きて臥し