翻刻
そゝろニ其侭御帰城有て半右衛門ニ能く計ひ一刻も
早く御構ヘニ出すへしと被仰しかハ半右衛門は弥三右衛門
か家ニいたり此女を御構へニ出すへき旨申付て弥三右衛門
ハ兼て邪智深き者なれハ落付顔にて私風情の娘
御上へ召遣われんとハ無勿躰奉存候へとも私急ニ金
子五十両無之候てハ不相済事にてはや五十両ニ約束
仕候へは御上へ差上候儀幾重にも御免下され候様に
御断奉頼候と申ニ半右衛門打笑ひ御上へ被召出候ハヽ
五十両百両ハいと安き事也弥上の御心ニ叶ひなば汝か立
身加増いか計先五十両急用とあらハ早速給はるへき也
追付仰遣ハすへきよし約束す弥三右衛門大ニ悦先五十
両ハして取たり此上加増とハ両手ニうましと奉畏候と
御受けしけれハ半右衛門ハ早速に御納戸金五十両持せ
仰の駕を遣ハし私宅へ呼とり殿中の儀式とも言
教へ装束取繕ひおのれか娘分にして奥へ出しけれは
主殿頭大ニ悦ひ給ひ昼夜御側をはなし給ハす此
女美しきのみならす諸芸迄至ざる事なく其粧
ひ類ひなけれハ忠恕公猟を好み給ひけれとも暫くも
放るゝ事をいとひ給ひ一向他行を止め昼夜枕席
をともニして寵愛浅からす花村半右衛門に弐百石
加増賜り三百五十石にて側用人と立身し実父
弥三右衛門召出され弐百石後ハ介富永十左衛門と改名