翻刻
恐れ申上けれは忠恕公大ニ笑ひ給ひ下良ハ可様の
たわ事いふ物也我領主として天人にもせよ恐るべ
きか急ぎ汲干へしと大勢の人夫をして汲干け
るに三間はかりにて廻り壱間計りの段あつて又汲
けれは三間はかりニて又廻り一間はかりの段有つて其
下は井出程に成何程汲め共水尽す日も既ニ黄昏
に及ひければ翌日汲干へきよし仰られて帰り給ふ
可様ニ水を汲けれとも数多見へし魚壱疋も上らす
扨翌日早朝ゟ息をもつかす終日汲けれとも水尽
されは力なく其侭に成にける
一 爰に荒川玄順といふ外療有り其術他に勝れ専ら
時花仕ける其翌朝十七八計なる美女案内して
我昨日怪我いたし痛強く御座候御療治奉頼ん
ため参候と言入けるニ安き御事也と見るに頭の内
背に疵あり是は何と致され候哉と尋けれはき
のふ物を打当られ候由申薬を調合し与へけ
れは難有しとてニ三日過て来て御|頼(カゲ)にて痛も
去りありかたき由申玄順扨々不審なる事かな
田舎者といへとも顔容美なるのみならす言葉つ
き立振廻にいたる迄尋常の人ならすと思ひ其
元は何国の【に】住せ給ふ人にや田舎人と宣ふとも