翻刻
にしへの四郎か再来にやあらんと取〻評判す父玄順
も今子ある中と成しかも女が出所も語らす忰が
様子人の評はんも無理ならす安部の保名か妻の
野干にてやあらむといとゝ不審はれやらすためし
みんと思ひよりしそ是非もなき或時妻ニ向ひて
我ハ今日遠方行いたす間夜半に帰るべしもし
隙取候ば明て帰るへし能〻留守し給へと立出其後
密に立帰り家の内を伺ひ見るに妻見へす
奥の方に鼾高く聞へしかばさし覗き見るに
二丈計りの大蛇臥居て雷の如き鼾して有けれ
ハ玄順大ニ驚き是は妻を喰しにやとハット云て飛
出暫く気を静めて立帰りし振にて妻を呼けれは
ハつと答て立いで今宵は帰るましく仰有しか早く
帰らせ給ふといふされハ今宵ハ明日ならでハ帰らし
と思ひしに行先の人に道ニて逢先へ行すして帰
りしといへは妻申様そなた様には御気もしにても悪
敷御座候哉御顔色あしく御声震ひ御言葉はそゝろ
なり扨私去年よりの御情可奉報やふもなく
剩御子までもふけ天ニも地ニも替かたく奉存候へ共
御縁尽御別れ申さねはならぬ身と成候へハ御|暇(イトマ)
を給はるへしと涙と共にいとまを乞我馴染て千代
万代迄も替らしと契り思へ共縁尽添かたきとあ