翻刻
しかるに□【しヵ】ゆはんは
おのがじゆつすくれ
ければある夜かい
しやうをとびこし
ゑちごのくに
けんかみねに【剣ヶ峰に】
すめる蛇冠(じやくわん)と
いへるばけものゝ
かたへきたり
いろ〳〵のはなしのうへ
おのがじゆつのかう
まんしてわが
じゆつをもつて
ばけものなかまを
おどしひしげ
つけてみせ
もふさんまゝ【申さんまゝ】
なぐさみながらわれと
つれだちこれより
よねやまとうげの
へんをひぎようし
たしよのばけものどもを
へこませるをけんぶつ
あれといゝ
ければじやくわんも
これはわがため
にもよきしゆ
ぎよう也おじゆつの
ほどもいつ
けんいたさ
ばやとどふ〴〵して【同道して】くもを
おこしかぜをよび
よね山のへんへ
おもむきける
【右ページ下、台詞】
〽それは
かう
がくの【後学の】
ために
おとも
いた
さう
〽ハイ
ばけ
ものを
みて
おちや【お茶】
を
あがれ
【左ページ下、台詞】
〽いまではせかいに
わしほどばける
ものはある
まいと
おもいます
現代語訳
しかるに朱盤は自分の術に優れていたので、ある夜海上を飛び越えて越後の国の剣ヶ峰に住む蛇冠(じゃかん)という化け物のもとへやって来た。いろいろな話をした上で、自分の術を自慢して「私の術を使って化け物仲間を脅し屈服させてみせよう。申すままに楽しませながら、私と一緒に連れ立って、これより米山峠の辺りを遍歴し、他所の化け物どもをへこませるのを見物あれ」と言った。すると蛇冠も「これは私のためにも良い修行である。お術のほどもぜひ拝見いたしたい」と同道して、雲を起こし風を呼んで米山の辺りへ向かった。
【右ページ下、台詞】
「それは後学のためにお供いたそう。」
「はい、化け物を見てお茶をあがれ。」
【左ページ下、台詞】
「今では世界に私ほど化けるものはあるまいと思います。」
英語訳
However, since Shuban was skilled in his arts, one night he flew across the sea to visit a monster called Jakwan (Snake Crown) who lived on Kenka-mine (Sword Peak) in Echigo Province. After various conversations, he boasted of his own techniques saying, "I shall use my arts to intimidate and subjugate fellow monsters. While entertaining you as I speak, come along with me and let us travel around the area of Yoneyama Pass to witness how I humble the monsters of other places." Jakwan replied, "This would be good training for me as well. I would very much like to observe your techniques." So they traveled together, raising clouds and summoning winds as they headed toward the Yoneyama area.
[Dialogue from right page below]
"That would be for my future learning, so I shall accompany you."
"Yes, watch the monsters and have some tea."
[Dialogue from left page below]
"I think that in this world there is no one who can transform as well as I can."