翻刻
じやくわんしゆ
はんといてゝ
かへらざるゆへ
てしたのばけ
もの出丹(しゆつたん)といふ
ものむかいに
きたり此ていを
みて大におど
ろきかいほう
したれはすこしいきありて
しゆはんのために
だましくいにあい【騙し食い(だまし打ち)に合い】
たるわけをもの
がたりついに
はかなくなり
ければ出丹は
なけきかなしひ
せんかたなく
しやくわんのしがい
をかたにかけて
たちかへる
【右ページ下、台詞】
〽をや
〳〵
ばけ
らしい
よう
上は
しつたのか
コリヤ
どふだ
おや
かた
〳〵
をやかた
どふしやう
じやぐわんさん〳〵
じやぐわんすう【?】
〽さう
いふ
わるい
じ
くちを【地口を】
きゐては
いよ〳〵
くるしい
アヽ〳〵
グウ
〳〵
さらば
〳〵
【左ページへ】
出丹はじやぐわんの
なきからをうち
かたげたちかへり
かくとものがたれば
じやぐわんのさい
しはなげき
かなしみ
せかれ蛇鱗(じやりん)と
いふものなに
とぞ
すくさまさしうへ【直様、佐州へ】
おしわたりおやの
かたきをうたんと
いさみければしゆつたんも
おやかたのあだ
なればじや
りん【蛇鱗】もろとも
そのよういをぞ
なしたりける
【左ページ台詞】
やれかな
しや
〳〵
こちの人
しやくわんどのは
のう □ウ〳〵
ぎやァ
〳〵
〽ちゝのあたにはともに
天をいたゞかずだ
いつこくもはやく
よういせん
〽サア〳〵
ごしたく〳〵
現代語訳
邪眼と朱盤が言って帰らないので、手下の化け物である出丹(しゅったん)というものが迎えに来た。この有様を見て大いに驚き、介抱したところ少し息があって、朱盤のために騙し食いに遭ったわけを物語り、ついにはかなくなってしまった。出丹は嘆き悲しみ、どうしようもなく邪眼の死骸を肩にかけて立ち帰る。
【右ページ下、台詞】
「おやおや、化けらしい様子、上(かみ)は知ったのか」
「これはどうだ、おやかた、おやかた、どうしよう。邪眼さん、邪眼さん」
「そういう悪い地口を聞いてはますます苦しい。ああ、ぐう。それでは」
【左ページへ】
出丹は邪眼の亡骸を担いで立ち帰り、このように物語ると、邪眼の妻である蛇鱗(じゃりん)というものが何とも言えず激怒し、すぐさま佐州へと押し渡り、親の仇を討とうと勇んだので、出丹も主君の敵なれば、蛇鱗と共にその用意をしたのであった。
【左ページ台詞】
「やれ悲しや、こちらの人、邪眼殿はのう」(泣き声)「ぎゃあ」
「父の仇とは共に天を頂かず、一刻も早く用意をしよう」
「さあさあ、ご支度を」
英語訳
Since Jagan and Shuban had said they would return but did not come back, a subordinate monster called Shuttan came to meet them. Seeing this terrible scene, he was greatly shocked and gave aid, finding there was still a little breath left. The dying one told of how he had fallen victim to Shuban's deceptive devouring, and finally passed away. Shuttan grieved and mourned, and having no other choice, carried Jagan's corpse on his shoulder and returned home.
[Right page below, dialogue]
"Oh my, what a monstrous sight. Does the master know?"
"What is this? Master, master, what shall we do? Jagan-san, Jagan-san!"
"Hearing such ill-omened wordplay makes it all the more painful. Ah, ugh. Well then..."
[Left page]
Shuttan carried Jagan's corpse back and told this story. Jagan's wife, a creature called Jarin (Snake Scale), became unspeakably enraged and immediately set out for Sado Province, eager to avenge her husband. Since this was also Shuttan's master's enemy, he made preparations together with Jarin.
[Left page dialogue]
"Oh, how sad! This person here, Lord Jagan, alas!" (crying sounds) "Gyaa!"
"One cannot share the same sky with one's father's killer - let us prepare with all haste!"
"Come, come, make ready!"