翻刻
分しかもすぐれての好物(こうぶつ)。御/夜詰(よづめ)が引けると夜中/張形(はりがた)一本をふたりの
たのしミ。伯母御(おばご)の云付にいやとハわれず。此中でさへすりミがき。やう〳〵に身仕廻(ミしまい)
が出来て。御供にハ若黨(ワかとう)の織平。とし頃も能けれバ。中間の織介に挑灯(てうちん)持
たせ。七ッ時ゟに屋敷を出。妙見(めうけん)様と普賢(ふげん)さまになが〳〵とした願をけかけて。
小梅の提(つヽミ)に出らるれバ。はや日もくれ織介が挑灯とぼして。跡からすた〳〵追(おひ)
付くにその身も褄(つま)引上。腰帯ちやんとしめたる其腰付のうまさ。どふも
ならぬと織平が。四十計の年にも似合ぬむほんの出来心。跡先に人ハなし。どふぞ
してと思ふ内。やぶかげからワンといふて。飛出る犬におとろき玉ひ。ヲヽこわと
かたより見玉ふに。白犬に黒犬(くろいぬ)が追いかけ来て。無二無三に重(かさ)なれば。
【左頁】 ニ ち
雌(め)犬ハ尾を下げてあてがへハ。すわやと見る内。上から腰を遣ふいき込
のうまさ。女犬も心よひやう。舌を出してよかる躰(てい)に。おせよさまハ思ハず
立とまり。ヲヤ〳〵織平ミやどふせふと。見とれ玉ふ目元のしほらしさ。いぬの
やりくりでも見玉ふハはじめなれバ。下地ハ御好なり。立すくミになり
玉ひて。婬氣(いんき)盛(さか)んにうつくしき顔。曻氣(じやうき)し玉ふに雄(お)犬ハます〳〵手ひどく
腰を遣ふに。織平も一物木のごとくおへ【生へ】出。ふたりがほつとため息つくところへ
挑灯とぼして織介が欠(かけ)付。此躰を見てきやつもたまらず。お道か悪ふごさ
ります。こちらへ御よけなされませといひながら。織平にめくばせして。芝(しバ)の
上へ押ころはせバおせよさまハおどろき玉ひ。コレ何をしやるつがもな【つがもない=とんでもない】ひと。起(おき)ん