翻刻
疳積(かんしゃく)の虫(むし)
かんしやくのむしはひたいにすじおゝく
しやきばりたる【硬直した】むしなりたふんは
大さけをこのみすりばち
すりこきさらさはちをうちわつて
くらふそのかみきまゝの【気ままの】
くに【国】きずいむら【気随村】にこのむし
おゝくしやうす【多く生ず】
やう〳〵じの【ゆう〳〵じ(悠々寺)の?】くわん〳〵おしやう【かんかん和尚】
ゆるりくわんす【緩寛+鑵子の洒落】のぬるまゆを【ぬるま湯を】
かけてきをながしかち【加持】
したまいこのむしを
さいどしたまふ【済度したまう】
ひとたるものこの
むしにつかれるときは
ついにみをほろほすなり
きまゝ【気まま】
きすいを【気随を】
つゝしみ
このむしを
ちかづけ
べからす
しゆらどうの
くるしみを
たすかれ
〳〵
【左ページ】
六足(ろくそく)の駕(かこ) 俗にさんまいといふ
古戦場(こせんじやう)鐘懸松(かねかけまつ)に【古戦場鐘懸松:竹田出雲】
博物志(はくぶつし)を引(ひい)て曰
三 ̄ン そくのかわづよく【三足の蛙、よく】
あたをぶくし【仇を復し?】
三 ̄ン ぞくのごとく【三足の五徳】
よくやくわん【薬缶】を
のすとつまびらかに
のせたれど
六足(ろくそく)のかごは
いまたみざる
ところなり
いたつてあしの
はやきものにて
あたかもちうを
とぶがごとく
ひるはいでず
よるになると
くらやみに
かくれゐて
ハイかご〳〵と
なく
つねに
さかて【酒手、チップ】をゑじきとす
【さんまいは三人で担ぐ駕籠で、急ぎの時か、派手さをアピールする時に使うとのこと。三枚肩の略。】
【鐘懸松:一の谷の合戦の時、源義経が陣鉦を掛けたと伝承される松の木】
【三足の蛙:本能寺の変の前夜、織田信長に異変を知らせたという言い伝えがある】
現代語訳
癇癪の虫
癇癪の虫は額に筋が多く、硬直した虫である。大変大酒を好み、すり鉢・すりこぎ・皿・鉢を打ち割って食らう。その気ままの国、気随村にこの虫が多く生息する。悠々寺の寛々和尚が、ゆるり寛子のぬるま湯をかけて加持祈祷し、この虫を済度してくださる。人たる者がこの虫に憑かれる時は、ついに身を滅ぼすのである。
気ままを、気随を慎み、この虫を近づけてはならない。
修羅道の苦しみを救われ給え
【左ページ】
六足の駕 俗に三枚という
古戦場鐘懸松の博物志を引いて曰く、
三足の蛙はよく仇を復し、三足の五徳はよく薬缶を載せると詳しく記されているが、六足の駕籠はいまだ見たことがないところである。至って足の速いもので、あたかも宙を飛ぶがごとく、昼は出ず、夜になると暗闇に隠れ居て、「ハイかご、かご」と鳴く。
常に酒手(チップ)を餌食とする。
英語訳
The Bug of Bad Temper
The bug of bad temper is an insect with many wrinkles on its forehead and a rigid body. It greatly favors heavy drinking and devours mortars, pestles, plates, and bowls by smashing them. This bug proliferates in the Country of Willfulness, in the village of Caprice. The leisurely priest Kankan of Yuuyuuji temple performs exorcism by sprinkling lukewarm water from Yururi Kansu's pot and saves souls from this bug. When a human being is possessed by this bug, they will ultimately destroy themselves.
One must be cautious of willfulness and caprice, and must not let this bug approach.
May you be saved from the sufferings of the realm of fighting demons (Asura)
【Left Page】
The Six-Legged Palanquin, commonly called "Sanmai"
Quoting from the Natural History of the Ancient Battlefield Pine of Bell-hanging:
It is recorded in detail that the three-legged frog can well avenge enemies, and the three-legged metal stand can well support a kettle, but the six-legged palanquin is something never before seen. It is extremely swift of foot, as if flying through the air. It does not come out during the day, but when night falls, it hides in the darkness and cries "Hai kago, kago" (Hey palanquin, palanquin).
It constantly feeds on tips (sake-te).