翻刻
しり給はぬに【お気づきなさらないで】さすかにかうことかた【異方=違った所】にいりた
まひぬれは心もえす【要領をえず】おもひけるほとものゝ
ねにきゝついて【聞いてそれに心ひかれ】たてるにかへりやいて給と
したまつ【下待つ=ひそかに待つ】なりけり【のであった】君はたれともえみわ
きたまはて【気付くことが出来ず】われとしられしとぬきあし
にあゆみのき給ふにふとよりて【寄ってきて】すてさ
せ給へるつらさに御をくりつかうまつり
つるは【お送りして差上げたのですよ】
もろともにおほうちやまはいてつれと
いるかたみせぬいさよひの月とうらむるも
現代語訳
お気づきなさらないで、それでもこのように人とは違った所にお入りになったので、要領を得ずに思っていたところ、物の音に聞いてそれに心ひかれて立っているのに、帰りなさるだろうとひそかに待っているのであった。君(光源氏)はだれとも気づくことができず、自分だと知られてしまったと抜き足で歩み退きなさると、ふと寄ってきて「お見捨てなさった辛さに、お送りして差し上げたのですよ」
「一緒に大内山を出て来たけれど、行く先を見せない十六夜の月」と恨むのも
英語訳
Without noticing him, yet having entered this unusual place, Tō no Chūjō was puzzled about what was happening. Having heard some sound and been drawn to it, he was secretly waiting for someone to return. Genji could not tell who it was, and thinking he had been discovered, he tried to steal away on tiptoe, when suddenly the other approached and said, "Because of the pain of being abandoned by you, I have come to escort you."
"Though we left the great palace together, like the sixteenth-night moon that does not show where it goes," he complains...