翻刻
〳〵しき【騒々しき=騒がしい】よひゐ【夜更けまで起きていること】なと に(のイ)はかなき【とりとめのない(話)の】ついてに
さる人こそ【そんな人がいるのか】とはかりきこえいて【噂が漏れ】たりしにかく
わさとかましう【意識的に】のたまひわたれはなまわつ
らはしく【なんだか煩わしく】女君の御ありさまもよつかはしく【好色がましく】
よしめき【訳ありそう】なともあらぬを中〳〵なる【生半可に】みちひ
きに【導きして】いとおしき事【気の毒なこと】やみえなん【にならないか】とおもひけ
れと君のかうまめやかに【誠実な様子で】のたまふにきゝ
いれさ ゝ(ら)むもひか〳〵しかるへし【片意地になっているようだ】ちゝみこおは
しけるおりにたにふりにたる【年月を経て古くなってしまっている】あたり
とてをとなひきこゆる【訪問される】人もなかりけるを
現代語訳
騒がしい夜更けまで起きていることなどの、とりとめのない話のついでに、「そんな人がいるのか」という程度の噂が漏れ出たりしたのに、このように意識的におっしゃり続けるので、なんだか煩わしく、女君のご様子も好色がましく、訳ありげなどということでもないのに、生半可な導きをして、気の毒なことにならないだろうかと思ったけれど、君がこのように誠実な様子でおっしゃるのに、聞き入れないのも片意地になっているようだろう。父宮がいらっしゃった時でさえ、年月を経て古くなってしまっている邸のことで、お訪ねになる人もいなかったのに。
英語訳
During casual conversations that continued into the noisy late-night hours, rumors had leaked out to the extent of "Is there really such a person?" Yet because he continued to speak so deliberately about this matter, it seemed somewhat troublesome, and though the lady showed no signs of being amorous or having any romantic entanglements, wouldn't it be pitiful to lead her astray with such half-hearted guidance? However, when the prince spoke so earnestly, it would seem obstinate not to listen to him. Even when her father, the prince, was alive, no one had visited this residence that had become old and dilapidated over the years.