翻刻
こそ見せめはへあるましき【張り合いなど有るはずがないだろう】わたりをあな
いとをし【見ていて気の毒だ】と命婦はおもへとたゝおほとかに【おっとりと】
ものし給ふをそうしろやすう【安心で】さしすきた
ること【出過ぎたこと】はみえたてまつり給はし【御覧に入れることはなさらない】とおもひける
わかつねにせめられたてまつるつみさり
こと【罪・咎を避けるためにする物事】に心くるしき人【気がかりな人(姫君)】の御物思ひ【思い悩むこと】やいてこむ
なとやすからす【不安に】おもひゐたり君は人【姫君】の御ほ
と【身分】をおほせはされくつかへり【甚だしゃれていて】い さ(まイ)やうの【今様=当世風の】よしは
み【よしばみ=上品ぶった様】よりはこよなうおくゆかしうとおほさるゝ
にいたうそゝのかされてゐさりより給へる
現代語訳
見せても張り合いがないだろうこの辺りを、ああ本当にお気の毒だと命婦は思うけれど、ただおっとりと振る舞っていらっしゃるので安心で、出過ぎたことはお見せになることはなさらないと思っていた。
いつも責められ申し上げる罪を避けるための物事に、心配な姫君の御物思いがいっそう深くなるなど、不安に思って座っていた。君(光源氏)は姫君の御身分をご存知なので、非常にしゃれていて、今様の上品ぶった様子よりも、この上なく奥ゆかしいとお思いになるにつけ、ひどく心をそそのかされて、そっと近寄っていらっしゃった。
英語訳
Even if she were to show herself, there would be no point in this desolate place. "Oh, how truly pitiful," thinks Myōbu, but since the princess conducts herself so gently and composedly, she feels reassured that she will not display any improper behavior.
Always being blamed, in matters done to avoid sin, the worrying princess's troubled thoughts grow ever deeper, and she sits there feeling anxious. The prince (Genji), knowing the princess's noble birth, finds her far more profoundly graceful than those who are very fashionable or affected with contemporary refinement. Being greatly stirred by this thought, he quietly draws closer to her.