翻刻
さしいりてゆきすこしふりたるひかりに
いとけさやかに【注①】見いれらる御なをし【直衣】なとた
てまつるを見いたしてすこしさしいてゝかた
はらふし給へるかしらつき【注②】こほれいてた
る【注③】ほとめてたしおひなをり【注④】見いてたらん
時とおほされてかうし【格子】ひきあけ給へり
いとおかしかりしものこり【注⑤】にあけもはて
給てけうそく【脇息】をゝしよせてうちかけて
御 ひくき(ひんくきイ)【注⑥】のしとけ【「しとけ」の左に「ヒヒヒ」と傍記】しとけなき【注⑦】をつくろ
ひ給ふわりなく【注⑧】ふるめきたるきやうた
【注① けざやか=はっきりしている。】
【注② 頭付き=(頭髪も含めた)頭全体のかっこう。】
【注③ 外に現れ出る】
【注④ 「おひなほり(生い直り)」=成長して性格などが、以前より改まること。】
【注⑤ ものごり(物懲り)=物事に懲りること。】
【注⑥ 鬢茎=結い上げた鬢髪の毛筋。】
【注⑦ 無造作である。】
【注⑧ どうしょうもなく。】
現代語訳
差し入って行き、少し降り積もった雪の光によって、とてもはっきりと見渡すことができる。直衣などを着せ申し上げるのを見て、少し身を乗り出して横になっていらっしゃる頭の格好、髪が垂れ出ている様子は大変美しく、成長して改まったところを見たいときだとお思いになって、格子を引き上げなさった。とても趣があった物懲りの名残で、すっかり開け放ちもなさらず、脇息を押し寄せて寄りかかって、お鬢の低く無造作な髪を整えていらっしゃる。どうしようもなく古めかしい京風の
英語訳
The light entered and advanced, and through the light of the lightly fallen snow, everything could be seen very clearly. Watching the attendants helping him put on his court robe and such, he lay sideways with his body slightly leaning forward. His head's appearance and the hair falling loose were most beautiful, and thinking this was the time to see how he had grown and improved, he raised the lattice shutters. In the lingering effects of what had been so charming before, he did not open them completely, but pushed the armrest closer and leaned against it, arranging his low, carelessly done hair at the temples. Hopelessly old-fashioned and courtly...