翻刻
うしてわなゝかしいて【注①】たりさりや【注②】としへ
ぬるしるしよとうちわらひ給て夢かとそ
みるとうちす【誦】していて給ふをみをくりて
そひふし【注③】給へりくちおほ い(ひ)【「い」の字の中に「ヒ」と記入。】のそはめよ
りなをかのすゑつむはないとにほひや
かにさしいてたり見くるしのわさやとお
ほさる二条院におはしたれはむらさきの
君いともうつくしきかたおひ【注④】にてくれ
なゐはかうなつかしきもありけりとみ
ゆるにむもん【無紋】のさくらのほそなか【注⑤】なよゝか【注⑥】に
【注① ふるえ声を出す。】
【注② その通りだ。】
【注③ (物や人に)寄り添って寝る。】
【注④ 片生ひ=十分に成長していないこと。】
【注⑤ 細長=貴族のこどもの装束。】
【注⑥ 衣服など柔らかな感じのするさま。】
現代語訳
うして震え声を出して「その通りだ、年を経た甲斐があった」と微笑まれて、「夢かと思う」と口ずさんでいらっしゃるのを見送って、寄り添ってお休みになった。口惜しいことのついでに、なおもあの末摘花が匂いやかに差し出ていた。見苦しいことよとお思いになる。二条院にいらっしゃると、紫の君がとても美しい成長途中の姿で、紅はこのように親しみやすいものでもあったのだと思われるのに、無紋の桜の細長を柔らかに
英語訳
Thus, speaking with a trembling voice, "Indeed, it was worth growing old for this," he smiled and murmured "I wonder if this is a dream" as she watched him depart, then lay down beside him. Along with other regrettable matters, that Suetsumuhana's nose still protruded so prominently. How unseemly, he thought. When he arrived at Nijō-in, Murasaki no Kimi appeared in her beautiful, still-developing form, and he thought that crimson could indeed be so endearing, as she wore an undecorated cherry-colored fine silk robe softly