翻刻
答(こたへ)申様 我(われ)父母(ふほ)より受し身体(しんたい髪(はつ)
膚(ふ)に少しも疵(きず)付(つけ)ず我(わが)瘤(こぶ)は
生れつきなれは那(いかてか)これを恥(はぢ)と
せん心の穢(けがれ)こそ恥(はづか)しくおもふべ
けれと答(こたへ)けれは閔王(ひんわう)深(ふかく)感(かん)じ給ひ
賢女(けんぢよ)なりとて後車(こうしや)に会(くはい)し
つれ帰(かへ)らんとの給ふ時に宿瘤(しゆくりう)
申様 我(わが)父母(ふぼ)家(いえ)にいます父母の
命(おほせ)をもうけずして君(きみ)に随(したが)ひ
侍(はんべ)らは是 奔女(ほんぢよ)なり大王 如何(いかん)ぞ
用(もち)ひ給はんといふ閔王(ぶんわう)大きに慙(はち)
たまひ終(つい)に使者(ししや)をして黄金(わうごん)百 鎰(いつ)《割書:二十四両を|鎰といふ》を贈(おく)り礼(れい)を厚(あつう)して迎(むかへ)しめ後宮(こうきう)
に入て妃(きさき)の位(くらゐ)に備(そな)へ給ひしとかや
董永(とうゑい)が事
董永(とうゑい)はいとけなき時 母(はゝ)におくれ父(ちゝ)につかへて至孝(しかう)なりもとより家(いへ)貧(まづ)しければ
人にやとはれ耕作(かうさく)し父(ちゝ)を育(はご)くみける父 死(し)せる時 葬式(さうしき)をすべきちからなければ我身(わがみ)
を売(うり)て葬礼(さうれい)をいとなみ其後(そのゝち)身(み)を売(うり)し主人(しゆじん)の許(もと)へ行道(ゆくみち)にて美女(びぢよ)にあへり
彼(かの)女(をんな)董永(とうゑい)が妻(つま)にならんといふ董永(とうゑい)がいふ我(われ)貧(まづ)しくて頃日(このごろ)父におくれ葬(ほうむり)を
すべきちからさへなくて我身(わかみ)を売(うり)父の孝養(かうやう)に充(あ)つ今 主人(しゆじん)の家(いゑ)へ行也 如何(いかゞ)して
夫婦(ふうふ)にならんといふ女のいふ様 我(われ)能(よく)機(はた)をることをす倶(とも)に主人の許(もと)に行て仕(つかへ)んと
いふ董永(とうゑい)辞(じ)することあたばず終(つい)に夫婦(ふうふ)と成 倶(とも)に主人の方(かた)へいたり仕へけゐに
彼女一月の中(うち)にかとりの絹(きぬ)とてたくひなく美(うつく)しき絹(きぬ)百 匹(ひき)織(おり)て主人の
【図中】
斉(せいの)閔王(びんわう)召宿瘤(しゆくりうをめす)図(づ)