翻刻
前(まへ)にいだし董永が債(おいめ)をあが
なひければ主人(しゆじん)大きに驚(おどろ)き
且(かつ)よろこびて董永(とうゑい)夫婦に
いとまをつかはしぬ董永は旧(きう)
里(り)に帰(かへ)らんとして門(もん)を出ける
時 婦人(ふじん)告(つげ)ていふ我(われ)まことは天の
織女(おりひめ)なり汝が孝行(かう〳〵)深(ふかき)を感(かん)じ
天より我(われ)をつかはして汝(なんち)を
たすけしむといひ畢(おはつ)て忽(たちまち)
天にあがり給ふ孝(かう)は百 行(かう)の本(もと)
にて有難(ありがた)きためし也
蔡順(さいじゆん)の事
蔡順(さいじゆん)は汝南(ぢよなん)の人なり母に事(つかへ)て
孝行ふかし其頃(そのころ)天下大ひに乱(みだ)れ
赤眉(せきび)の賊(ぞく)とて四方に横行(わうぎやう)し
恣(ほしひ)まゝに財産(ざいさん)を奪(うば)ひ万民
をなやましけるにより国中
飢饉(ききん)に及びける蔡順(さいじゆん)は日々(ひゞ)山野(さんや)に
出て菓(このみ)を拾(ひろ)ひ糧(かて)とし患難(くはんだん)【ママ】の
中(うち)に日(ひ)を送(おく)りけるに其(その)篤行(とくかう)いはんかた
なしある時 桑(くわ)の実(み)を拾(ひろ)ひ撰分(ゑりわけ)居(ゐ)
たりしに賊党(ぞくたう)来り汝(なんぢ)其 実(み)は
【右図中】
董永(とうゑい)が
妻(つま)
絹(きぬ)を
織(を)る
図(づ)
【左図中】
蔡順(さいじゆん)桑子(くわのみ)を拾(ひろ)ふ図(づ)