翻刻
糸祝(いといは)ひといふは養蚕(こがひ)のことなく終(おへ)
ぬるを賀(が)してものする事(こと)になんされば
初花(はつはな)匂(にほふ)ふ比(ころ)より桑(くわ)採(と)る営(いとなみ)に永(なが)き日(ひ)
を忘(わす)れ郭公(ほとゝぎす)鳴(なく)や五月(さつき)の短夜(みじかよ)も睡(ねむり)を
忍(しの)ひでこれが起伏(おきふし)に心を尽(つく)しわらうだ
かふるなど身(み)のいとまなきが
まゝに若(わか)き女(をうな)といへど裳(もすそ)高(たか)
く掲(かゝ)げ髪(かみ)も楚(おどろ)を束(つか)ねし
様(やう)にてすべて誰(たれ)の人ともわかれ
ぬに今日(けふ)の賓客(まらうど)設(もう)けせんと
衣服(いふく)調度(てうど)など粧(よそほ)ひみやびかに
ひき繕(つくろ)ひたる気(け)しきさへある
に並居(なみゐ)る人々に餅(もち)高(たか)く盛(もり)て
持(もち)出たる始(はじめ)の忩(いそがは)【=怱】しかりし姿(すがた)とは
俄(にはか)に目(め)さむる心地(こゝち)なんせらる今日(けふ)
まづ是をもて寿(ことぶく)
事は古(いにし)へよりの
例(あと)なりとぞやゝ盃(さかづき)とり出て
千(ち)たび百度(もゝたび)めぐる程に時(とき)
移(うつ)れど猶(なを)どよめきつゝ
夜(よ)の明(あく)るをも知(し)らで
興(きよう)じあへるは尽(つき)せぬ
宿(やど)の嘉(よろこ)びを唱(うた)ふ事
にて彼(かの)唐人(もろこしびと)の桑(くわ)を
種(うゆ)ること百 余(よ)樹(じゆ)黍(きび)を
種(うゆ)ること三十 畝(ほ)衣食(いしよく)
既(すでに)に余有(あまりあ)り時々(とき〳〵)
賓友(ひんゆう)に会(くはい)す
といひけんも
斯(かゝ)る類(たぐ)ひ
にやと
おほし