翻刻
心(こゝろ)がけ見れどもとかく
見(み)へがたく侍(はんべ)るなり
と答(こたへ)ければせんかた
なくてやみけるとぞ
按(あん)ずるに事(こと)は
馴(なれ)て知(し)るの理(り)あり
此 老女(らうぢよ)数年(すねん)の間(あひだ)
朝夕(あさゆふ)津居山(つゐやま)の嶺(みね)に
雲(くも)のかゝるを見馴(みなれ)て
天性(てんせい)自然(しぜん)に覚(おぼへ)しならん
養蚕(やうさん)の業(げふ)もこれにおなじ
一通(ひととをり)定(さたま)りたる法(ほふ)を覚へ(おぼ)て後(のち)は
日夜(にちや)我家(わがや)の陽気(やうき)
をおぼゆること大事
なり陽気(やうき)は家々(いゑ〳〵)
によりて異(こと)なるべし
これを考(かんが)ふるに一 理(り)
ありかならず半途(はんど)にて
すつる事なかれ