東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

源氏百人一首 - 翻刻

源氏百人一首 - ページ 34

ページ: 34

翻刻

【右丁 上段】 二条(にでう)のおとゞの御娘(おんむすめ)にて弘徽([こ]き) 殿(でん)の大后(おほきさい)の御妹(おんいもと)也 葵(あふひ)の□【ま】きに 朱雀院(すざくゐん)に参(まゐ)りてみくしげ 殿(どの)と申し榊(さかき)の巻(まき)に内侍(ないし)の督(かみ) となるこのうたは源氏(げんじ)に始(はじめ)て あへる夜(よ)此後(このゝち)おとづれせんため 名(な)のりし給へとありし答(こたへ)に詠(よめ)る なりこゝろは我身(わがみ)このまゝ死(しに) て草葉(くさば)の蔭(かげ)にかくれなばそ の草(くさ)の原(はら)をばたづねとふらはん とは思召(おぼしめさ)ずやと也 名(な)のらずば 此まゝ捨(すて)はてんとおもひ給ふ かととがめたる也 【左丁 下段 左から読む】  ふ おも とや  じ とは    をば  草(くさ)の原(はら)  たづねても  やがてきえなば 浮身(うきみ)世に  朧月夜(おぼろづきよの)内侍督(ないしのかみ) 【左丁 上段】 朱雀院(すざくゐん)の母方(はゝかた)の御祖父(おほぢ)朧(おぼろ) 月夜(づきよ)の父(ちゝ)也 榊巻(さかきのまき)に太政大臣(だいぜうだいじん) と成(なり)明石巻(あかしのまき)にかくれたまふ此(この) 哥(うた)はみづからの家(いへ)に花(はな)の宴(えん) したまはんとて早(はや)く源氏に 約束(やくそく)し置(おき)つれども至(いた)りたまは ざりければ御 迎(むかへ)に使(つかひ)しておく られたる哥(うた)也 心(こゝろ)は我宿(わがやど)の花(はな) もし世(よ)の常(つね)の色(いろ)ならばいかで かしひて御 出(いで)を願(ねが)はん大方(おほかた)な らずよき花(はな)なればこそ待(まち)ま ゐらすれと也 【同 下段】  二条太政大臣(にでうのだいぜうだいじん) 我宿(わがやど)の花(はな)し  なべての 色(いろ)な  らず 何(なに)かは  さらに 君(きみ)を   待(また)ま     し

現代語訳

【右丁 上段】 二条大臣の御娘で、弘徽殿の大后の御妹である。葵の巻で朱雀院に参内して御匣殿と申し上げ、榊の巻で内侍の督となる。この歌は源氏に初めて逢った夜、この後に便りをしようと名前を名乗ってくださいとあったその答えに詠んだものである。歌の意味は、私がこのまま死んで草葉の陰に隠れてしまえば、その草の原を訪ねて弔おうとはお思いになりませんか、ということである。名前を名乗らなければ、このまま見捨ててしまおうとお思いでしょうかと咎めたのである。 【左丁 下段】 朧月夜内侍督 浮き身世に やがて消えなば 尋ねても 草の原をば 思ふとや 【左丁 上段】 朱雀院の母方の御祖父、朧月夜の父である。榊の巻で太政大臣となり、明石の巻で亡くなられる。この歌は自分の家で花の宴をなさろうとして、早くから源氏にお約束しておいたけれども、いらっしゃらなかったので、お迎えの使者を出して送った歌である。歌の意味は、我が家の花がもし世間並みの普通の色ならば、どうして無理にお出ましを願うでしょうか。格別に美しい花だからこそお待ち申し上げているのです、ということである。 【同 下段】 二条太政大臣 我が宿の花し なべての色ならず 何かはさらに 君を待たまし

英語訳

【Right Page, Upper Section】 She was the daughter of Minister Nijō and younger sister of Empress Kōkiden. In the "Aoi" chapter, she entered service at Suzaku-in as Mikushige-dono, and in the "Sakaki" chapter became Naishi-no-kami (Chief Inner Palace Attendant). This poem was composed in response to Genji's request that she give her name so he might send messages after their first meeting. The meaning is: if I should die as I am now and be hidden beneath the grass, would you not think to visit and mourn at that grassy field? She reproached him, asking if he would abandon her completely if she did not reveal her name. 【Left Page, Lower Section】 Oborozukiyo Naishi-no-kami (Lady Oborozukiyo, Chief Inner Palace Attendant) If this floating life should vanish away, would you think to seek even in the grassy fields where I might lie? 【Left Page, Upper Section】 He was the maternal grandfather of Suzaku-in and father of Oborozukiyo. In the "Sakaki" chapter he became Prime Minister (Daijō-daijin), and in the "Akashi" chapter he passed away. This poem was sent with a messenger when he had promised Genji early on to hold a flower viewing party at his residence, but when Genji did not come, he sent someone to fetch him. The meaning is: if the flowers at my residence were merely of ordinary, common beauty, why would I insist on your presence? It is precisely because they are exceptionally beautiful flowers that I await you. 【Same, Lower Section】 Nijō Prime Minister The flowers of my garden— if they were of ordinary hue, why should I wait for you any longer?