東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

源氏百人一首 - 翻刻

源氏百人一首 - ページ 48

ページ: 48

翻刻

【右丁 上段】 太宰少弐(だざいのせうに)の北方(きたのかた)にて兵(へう) 部(ぶ)の君(きみ)等(ら)が母(はゝ)也此うたは 上(かみ)の大夫(たいふ)の監(げん)が哥(うた)の返(かへ)し せぬもきのどくなれば唯(たゞ) 思(おも)ふ儘(まゝ)に云(いひ)て返(かへ)しの替(かは)り にしたる也 心(こゝろ)は玉(たま)かづらの身(み) の上(うへ)を幸(さいはひ)あらせたまへと 祈(いの)る願(ねがひ)の趣(おもむき)に違(たが)ひてかゝ る男(をとこ)の勢(いきほ)ひにせまりてもし 手(て)ごめにあふやうなる事(こと) もあらば神(かみ)の利生(りせう)をつら しとおもふべしと也 【同 下段】 夕顔乳母(ゆふがほのめのと) 年(とし)を   経(へ)て いのる   心の たがひ  なば 鏡(かゞみ)の  神(かみ)を つらしとや    みむ 【左丁 上段】 父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおどゝ【濁点の位置違い】母(はゝ)は夕顔(ゆふがほ)也 たまかづらの巻(まき)に源氏の 養女(やうぢよ)となり藤袴(ふぢばかま)の巻(まき)に 内侍督(ないしのかみ)と成(なり)槙柱(まきばしら)の巻(まき)に 鬚黒(ひげぐろ)の北(きた)の方(かた)と成(なり)て子(こ)あ また生(うみ)たまふ此(この)うたは蛍(ほたる) 兵部卿(へうぶけう)の宮(みや)○鳴声(なくこゑ)も聞(きこ) えぬ虫(むし)のおもひだに人(ひと)のけつ には消(きゆ)る物(もの)かはと詠(よみ)たまへる 返(かへ)し也 心(こゝろ)はのたまふごとく 鳴声(なくこゑ)はせずして身(み)をこがす 蛍(ほたる)こそかへりておもひは 深(ふか)かるべけれ言(こと)に出(いで)ていふは 中々(なか〳〵)に浅(あさ)しと也 【同 下段】  玉葛内侍督(たまかづらのないしのかみ) こゑはせて  身(み)をのみ  こがす 蛍(ほたる)こそ いふより 増(まさ)る おもひ なる らめ

現代語訳

【右丁 上段】 太宰少弐の北の方で、兵部君らの母である。この歌は、上記の大夫監の歌に返歌をしないのも気の毒なので、ただ思うままに言って返歌の代わりにしたものである。歌の意味は、玉葛の身の上を幸福にしてくださいと祈る願いの趣旨に反して、このような男の勢いに迫られて、もし無理強いされるようなことがあれば、神の利益を恨めしく思うであろう、ということである。 【同 下段】 夕顔の乳母 年を経て 祈る心の 違いなば 鏡の神を つらしとや見ん 【左丁 上段】 父は致仕の大臣、母は夕顔である。玉葛の巻で源氏の養女となり、藤袴の巻で内侍督となり、槙柱の巻で髭黒の北の方となって子供もまた生んだ。この歌は蛍兵部卿宮が「鳴き声も聞こえない虫の思いでさえ、人の軽蔑では消えるものであろうか」と詠んだ歌への返歌である。歌の意味は、おっしゃる通り鳴き声はしないで身を焦がす蛍こそ、かえって思いは深いのでしょう。言葉に出して言うのは、かえって浅いものです、ということである。 【同 下段】 玉葛内侍督 声はせで 身をのみ焦がす 蛍こそ 言うより勝る 思いなるらめ

英語訳

【Right Page, Upper Section】 She is the wife of Dazai-no-shōni and the mother of Hyōbu-no-kimi and others. This poem was composed as a substitute for a reply poem, since it would have been pitiful not to respond to the aforementioned Taifū-no-gen's poem - she simply expressed her thoughts as a replacement for a proper response. The meaning is: If, contrary to my prayers wishing for Tamakazura's happiness, she were to be pressured by such a man's advances and perhaps forced into submission, then I would find the divine protection resentful. 【Same, Lower Section】 Yūgao's Wet Nurse If after years of faithful prayer my heart should waver, would I then view the mirror deity as cruel? 【Left Page, Upper Section】 Her father is the retired minister, her mother is Yūgao. In the "Tamakazura" chapter she became Genji's adopted daughter, in the "Fujibakama" chapter she became Naishi-no-kami, and in the "Makibashira" chapter she became Higekuro's wife and bore children. This poem is a reply to Prince Hotaru Hyōbukyō's poem: "Even the feelings of insects that make no audible cry - do they disappear under people's contempt?" The meaning is: As you say, fireflies that make no sound but burn their bodies away - their feelings must be all the deeper. Speaking one's feelings aloud is rather shallow in comparison. 【Same, Lower Section】 Tamakazura Naishi-no-kami Making no sound, only burning themselves away— fireflies must feel emotions deeper than words can express